研究課題/領域番号 |
21H01659
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
澤口 孝宏 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, グループリーダー (30354161)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | マルテンサイト変態 / 双晶変形 / 低サイクル疲労 / 制振ダンパー / 弾塑性変形 |
研究実績の概要 |
本研究では、繰り返し弾塑性変形下で、γ→εマルテンサイト変態を伴う可逆的な反復転位運動により、従来の鋼材と比較して約10倍の疲労寿命を有するFe-15Mn-10Cr-8Ni-4Si (wt.%)合金(FMS合金)について、新たな材料設計にとって重要となる可逆的塑性変形の機構を徹底解明する。具体的には、変形誘起マルテンサイト変態の特性温度で決まる三つの温度域(I:εすべり支配、II:二方向γ→εマルテンサイト変態支配、III:γ変形双晶支配)のうち、温度域I、IIIで疲労寿命が低い課題の解決を目指す。 本年度は、三つの温度域(I、II、III)に対し、塑性変形メカニズムの可逆性の程度を定量的に測定し、塑性変形メカニズムがき裂発生・進展に及ぼす影響を解明する。共通の素過程であるショックレー部分転位運動の可逆性に注目し、SEM-EBSDやAFMによる変形組織解析を行った。変形組織解析と表面解析を組み合わせることにより、変形帯を構成する組織要素(マルテンサイト/双晶/転位)を同定しつつ、その中に存在する部分転位密度とその可逆性を評価した。 単結晶FMS合金(変形軸001、111、414)と多結晶FMS合金における様々な方位の結晶粒を対象試料として、各温度と様々な繰り返し変形ステージ(繰り返し数N)で、引張、および引張後圧縮した試料の変形組織と表面起伏の解析を行って、各温度の塑性変形メカニズムとその可逆性を調査した結果、温度域Iではεすべり、温度域IIではγ拡張転位すべりと二方向マルテンサイト変態により表面起伏の可逆変化が確認された。一方温度域Iではγ/ε界面に割れが生じやすいことがNf低下の一因であることが明らかになった。加工熱処理による組織微細化は温度域Iでマルテンサイト変態の進行を抑制することによりNfを上昇させる効果があることもわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
単結晶FMS合金では、引張変形に対しては、414方位と111方位はマルテンサイト変態が優勢な方位である。また、414方位は単一バリアントの形成が進行する容易すべり方向であり、111方位は三種類のバリアントがシアーと交差軸のなす角30°で交差する方位である。圧縮変形に対しては、001方位がマルテンサイト変態が優勢な方位である。本年度は、これら三つの結晶方位の引張、圧縮変形に対して発達するマルテンサイト組織のEBSD解析による評価を行い、変形組織に及ぼす変形温度の影響を明らかにすることができた。特に、低温域Iに対しては、組織微細化による変形誘起マルテンサイト変態の抑制とそれによるNfの上昇を確認することができ、今後、広い温度範囲で疲労寿命を向上させるための材料設計指針が得られた。また、実験手法としては、EBSD解析のための引張・圧縮変形後の試料表面の研磨に加えて、AFMによる表面起伏の解析のため、変形前の状態で表面加工層を残さずに研磨・電解研磨するための条件を詳細に検討した。この手法を用いて表面起伏と内部組織の対応から変形の可逆性に関する定量評価を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、高温域IIIを重点的に調査する。高温域IIIに突入すると温度上昇とともにNfが急激に低下することが課題になっている。単調引張では双晶変形する積層欠陥エネルギー(20~40mJ/m2)であり、潜在的には繰り返し変形下でショックれー部分転位の可逆運動が生じうるにもかかわらず、疲労破断材では変形双晶も観察されずNfも高くない。この原因として、変形双晶の発生過程に及ぼす大ひずみまでの単調引張と小ひずみの引張圧縮の累積ひずみとの影響の違いが考えられる。このような双晶の発生機構にはミクロ組織だけでなく、転位の相互反応に関する知見も必要になると考えられる。また、文献によれば、Cを高濃度に添加したTWIP鋼で塑性疲労寿命が増加した結果も報告されていることから、侵入型元素と転位の相互作用が、転位運動の可逆性や繰り返し変形下の双晶の発達に影響している可能性もある。そこで、次年度は、高温領域IIIに着目して、炭素添加・無添加の試料を比較しながら、繰り返し変形下の組織発達過程を調査する。
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