研究課題
未利用資源の有効利用などのため,大細孔に突き出た強ブレンステッド酸点を持つ触媒材料の開発を目指している.2022年度には以下の成果を得た.YFI(YNU-5)型ゼオライトについては,合成・NH4イオン交換・焼成によって酸点が広い12-12-8-ring system(以後12rS)から先に発現し,イオン交換率が高まると狭いisolated 8-ring(以後i8r)に強酸点が発現すること,脱Alでは12rSの酸点が失われ,i8rの強酸点が残ること,劣化は12rSでは起きず,外表面や有機化合物がi8rに入る場合に起きることなどがわかった.この対策の第一歩としてAgイオン交換と還元手法を開発した.他方,塩基処理によりメソ孔を形成し、続く酸処理によって脱アルミニウムを行い,有効な酸点と階層構造をあわせ持つYNU-5触媒の調製に初めて成功した.ヘキサン接触分解における炭素析出の抑制は脱Alのみでもある程度可能であったが,階層構造の導入によって触媒性能がさらに向上した.またシリカの化学蒸着によって2-メチルナフタレンメチル化で形状選択性が発現した.シリカ塩基処理MFI(ZSM-5)型ゼオライトについては,360℃程度の炭化水素溶媒共存下ではポリプロピレンと溶媒分子の分解がミクロ細孔内で進行するので形状選択性が発現し,溶媒として嵩高い分子を用いると,ポリプロピレンを全てナフサ相当の炭化水素まで分解しつつ,溶媒を回収できることがわかった.これは廃プラスチックのリサイクルのための強力な技術となる.シリカモノレイヤーについてはアルキル多環芳香族の選択的脱アルキル化によるベンゼン誘導体生成に関する総説を出版した.ゼオライト上のCoを触媒とするメタンによるベンゼンメチル化も,開いた空間に突き出す強酸点を必要とすることがわかった.
1: 当初の計画以上に進展している
大細孔強ブレンステッド酸性の触媒を探索する計画であったが,YFI型ゼオライトがそのような性質を持つことがわかっただけでなく,2021年度までの詳細な知見に加え,ナフタレン環のメチル化に触媒活性を持つこと,12rSでの反応では劣化が見られないことなどから,実用性の高い触媒となることを明らかにできた.また劣化の起きる場所を失活させるミクロ細孔の選択的閉塞,外表面の不活性化,外表面積の向上によってミクロ細孔内での反応を優先させる手法を開発した.当初の計画を超え,シリカの化学蒸着による形状選択性も発現させた.シリカ塩基処理MFI型ゼオライトでは,シリカ塩基処理によって外表面近傍の活性点を破壊することなく外表面積を高め,MFIの高い触媒活性と嵩高い分子のアクセシビリティを両立させる計画であったが,これを実現した上で,反応をミクロ細孔内だけで進行させることによって形状選択性を発現し,廃プラスチックのみを分解し溶媒を回収する新規リサイクル法の原理を示すに至った.シリカモノレイヤーについては,目標としたシリカモノレイヤーを触媒とするアルキル多環芳香族の選択的脱アルキル化の手法の確立に加え,生成した多環芳香族をMo/Beta型ゼオライトを触媒とする部分水素化・開環によって選択的にベンゼン誘導体に転換する方法も見出し,未利用重質成分の有効利用の道を拓いた.当初本研究と関係が無いと思われていた,ゼオライト上のCoを触媒とするメタンによるベンゼンメチル化では,量子化学計算で反応機構が明らかになり,開いた空間に突き出す強酸点がCoを保持したとき高い活性を発現することがわかり,これを活かしたCo/MEL(ZSM-11)型ゼオライトの発見に至った.以上から,当初の計画以上の進展が見られたと評価している.
YFI型ゼオライトのi8rを選択的に閉塞する方法と,そのために細孔構造や細孔内の有効な酸点を定量的に解析する方法の確立を行う.具体的にはAgイオン交換・還元の条件を変え,超低圧領域での窒素の吸着挙動でサイズの異なるミクロ細孔の容積を区別してモニタし,アンモニアIRMS-TPD(赤外/質量分析昇温脱離)でi8rと12rSそれぞれのブレンステッド酸量を測定し,最適な閉塞条件を探索する.メタノールによる2-メチルナフタレンメチル化を行い,細孔構造と触媒寿命の関係を調べる.YFI型ゼオライトについてはシリカの化学蒸着の条件最適化を行い,有用な2,6-ジメチルナフタレンを選択的に製造できるかを調べる.前段落の寿命の改善との組み合わせも検討する.吸着分離への応用も検討する.シリカ塩基処理MFI型ゼオライトについては,実用的な廃プラスチックリサイクルへの適用可能性を検討するため,予想される夾雑物を含む混合廃プラスチックの分解,実用性の高い嵩高い溶媒としてイソセタンの利用,溶媒を完全に回収するために外表面の酸点をシリカの蒸着で不活性化するなどを試みる.
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