研究課題
YFI(YNU-5)型ゼオライトについては脱Al後にメチルナフタレン環のメチル化・トランスメチル化挙動を幅広く解析した.嵩高い2-メチルナフタレンのみを原料とする反応では異性化が進行し,触媒劣化が遅く,大細孔からアクセス可能な強ブレンステッド酸点によってトランスメチル化が速やかに進行し,そのような場合には劣化が起きにくいことが実証された.大細孔はあるがその中に強ブレンステッド酸点を持たないMOR(モルデナイト)型ゼオライトでは劣化が速かった.またYFIで小さなメタノールも原料として加えるとメチル化・トランスメチル化の両方が進行したが,両反応とも速やかな速度低下を示し,小さな分子が小細孔に入って副反応を起こし強ブレンステッド酸点を被覆することが示唆され,析出物やミクロ細孔特性の解析から裏付けられた.YFIゼオライトのシリカ被覆では,ここまで書いたように触媒劣化が顕著であり,また被覆によって活性の低下が激しいものの,2-メチルナフタレンとメタノールから2,6-および2,7-ジメチルナフタレンのみを選択的に生成することができた.シリカ塩基処理MFI(YNU-5)型ゼオライトにおいては塩基処理の程度を増すと,まず①外表面酸点が増加し,つぎに②外表面積が増加し,最後に③Al濃度が増す3段階の変化がそれぞれ起きることがわかった.ポリプロピレン分解活性は②と対応しており,ポリプロピレンがその一端をミクロ細孔に侵入させて反応していることが明らかとなった.既に嵩高い分子形状を持つ溶媒を使うと形状選択的にポリオレフィンだけを分解できることを示しているが,機構が明らかとなった.前年までに,開いた空間に突き出た強ブレンステッド酸点のCo種にベンゼンが強く吸着するため,メタンによるベンゼンのメチル化反応が進行することをおおよそ明らかにしていたが,今年度出版した.他に多数の学会・論文発表を行った.
1: 当初の計画以上に進展している
大細孔強ブレンステッド酸性の触媒を探索する計画であったが,YFIゼオライト・シリカ塩基処理MFIゼオライトの両新規物質がそのような性質を持つことがわかっただけでなく,YFIについては大小の分子を原料とする反応によって,反応が可能である場所によって劣化挙動が異なり,化学原料の製造に寄与する反応に対して細孔と酸性質の与える影響が具体的に明らかになった.シリカ被覆によって有用な2,6-ジメチルナフタレンの選択製造に向けた形状選択的触媒作用を実現した.シリカ塩基処理MFIゼオライトについては一見嵩高い高分子が一端をミクロ細孔に侵入させて反応していることなど,廃プラスチックの化学リサイクルのみならずさまざまな化学過程の設計に必要な知見を得た.Coを担持した系では予想を超えて,量子化学計算を援用し,開いた空間(α位置)に突き出した強ブレンステッド酸点上でCo種が電子不足となり,ベンゼンを非常に強く吸着し,これがメタンのC-H開裂に要する活性化障壁を相殺するため,極めて不活性な反応物同士(ベンゼンとメタン)が低活性化エネルギーで反応するという特異な反応機構が明らかとなった.以上から,工業的な応用可能性からも,学術的にも,当初計画を超えた進展が得られたと考えている.
大小のミクロ細孔を区別できる分析装置を入手したので,YFI,MFI,MOR,これらの修飾生成物,反応によって一部の細孔が閉塞した試料について,どのミクロ細孔が変化しているかを明らかにし,描いてきた仮説を実証するとともに,YFIによるアルキル化・トランスアルキル化の活性と寿命の向上,MFIによるプラスチック分解の性能向上に資する修飾法を明らかにする.
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