研究課題/領域番号 |
21H01741
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大城 敬人 大阪大学, 産業科学研究所, 特任准教授(常勤) (10462665)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | DNA / RNA / 1分子計測 / エピオミクス |
研究実績の概要 |
生体分子の疾病や環境変化にともなう分子修飾・分子ダメージを包括的に見るエピオミクスのためのナノ流路集積したデバイスによる1分子量子計測法の確立を行っている.今期,ナノ1分子量子計測法の計測精度を向上させるため新たな流路集積したデバイスを作成した.これを用いて,ガン細胞や尿中の核酸塩基鎖を捕集・精製することに成功した.こうした精製機構を集積化したデバイスで,大腸ガン細胞中の修飾・ダメージをうけた5mCやm6Aの稀少エピ分子を含むRNAの計測を行った.その結果,miRNAの中のエピ修飾の割合を5mCやm6Aどの種類のどの配列にどの程度のメチル化修飾の定量することに成功した.この結果から,大腸がんの細胞中の特定miRNA配列中の5mC修飾が近傍のm6A修飾を促進することを見出し,エピオミクスの存在を1分子レベルで確認することに可能であることを示した.こうした1分子で得られるメチル化修飾の種類とその配列の関係性は,今後疾病の稀少分子マーカーを発見が可能となると期待される.エピオミクスは投薬によっても起こっていると予想し,近年注目されている核酸アナログの抗がん剤によるゲノムへの影響について評価を行った.具体的にはTAS-102(日本名:ロンサーフ)の1成分である核酸アナログのFTD分子が,FTD耐性がん細胞中に挿入していることを1分子検出することに成功した.驚くべきことは,他のDNA領域に比べ,p53のDNA結合領域に特異的にFTDが挿入され,p53との相互作用を阻害していることを発見した.このことは,発現解析でアポトーシス関連遺伝子であるTP53が抑制されアポトーシス阻害されるという耐性を得ており,1分子検出で得られた発見が裏付けられた.このことは,この1分子検出を基盤とした方法論が,抗がん剤などの薬剤作用機序を1分子レベル明らかすることが可能であることを示す成果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は,予定していた稀少エピ分子である5mCとm6Aのメチル化核酸塩基修飾に必要な3つの要素技術について予定通りの成果を挙げた.具体的には,一つ目である5mCおよびm6Aの解析・データ取得および機械学習に必要なトレーニングデータを作成し,修飾塩基を含むベースコールに必要なデータベースを確立した.二つ目として,実試料測定のための前処理技術の確立をおこなう一環として,miRNAを,細胞ライン,尿からの抽出を精製法について,ナノ構造体をベースとしたピラー構造を設計し,miRNAの抽出に成功した.前処理溶液から連続測定までをシームレスにするための微細構造を設計し,製造プロセスを見直し,開発した改良デバイスを計測装置の治具を改良し,センサーの先端構造や修飾を行い,低ノイズ化を実現した.こうした要素技術の確立,特に抽出精製可能なデバイスの開発が予想以上に進んだことから,他の試料への応用に向けた展開を始めた.特に,ペプチドシーケンサーに向けたアミノ酸種計測を開始し,アミノ酸種コールデータベースの作成に着手した.これに並行して,ペプチドシーケンサーのターゲットとして,筋ジストロフィーのターゲット分子であるミオシン分子の合成試料及びマウスよりの抽出試料について計測を開始した.また予想外の学術成果として,抗がん剤となる核酸アナログのFTD分子が,FTD耐性がん細胞中に挿入していることを世界で初めて1分子検出することに成功し,抗がん剤の作用機序を1分子レベル明らかにしたこうした作用機序を明らかにする方法論として本手法の可能性を大きく広げるものといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,開発した計測システムの応用に焦点を当て,1分子計測研究分野の拡大を主眼に据える.一つ目は,5mCおよびm6A以外の稀少エピ分子を含めた核酸種を増やすことを目標とする.RNAの機能制御にかかわるRNAのリボース2位のOHはメチル化しOCH3としたオキソメチル化核酸を含む既報の20種をターゲットとする.二つ目として,ペプチドシーケンサーに向けたアミノ酸種や修飾アミノ酸種(メチルリジン等)についてのコールデータベースのデータベースおよびアルゴリズムの作成を行うことを目標とする.特にメチルリジンは,メチル化する場所が複数で,構造異性体が多くなるため,1分子計測で識別することで,その生化学的酵素反応について新たな知見を得ることができると考えられる.三つ目として,バイオ試料を計測することで生化学的な新規発見することを目標とする.具体的には,miRNAによる膵がんや婦人科系ガンなどのガン・非ガン識別,ステージの識別,精神疾患などの尿サンプルや血漿サンプルによる疾患の有無識別,筋ジストロフィーのターゲット分子であるミオシン分子の識別による疾患の有無識別などをターゲットして,マーカーの発見や疾患メカニズムについて探る.
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