研究課題/領域番号 |
21H01753
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高野 勇太 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (60580115)
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研究分担者 |
宮武 由甲子 北海道大学, 医学研究院, 助教 (10421984)
平田 恵理 北海道大学, 歯学研究院, 助教 (10722019)
山田 勇磨 北海道大学, 薬学研究院, 准教授 (60451431)
繁富 香織 北海道大学, 高等教育推進機構, 特任准教授 (90431816)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 三次元培養 / コアシェル型量子ドット / 電子ドナー・アクセプター分子 / 発光材料 / 活性酸素 |
研究実績の概要 |
本年度は、当初計画通り「(I):3D培養系で高い浸透性・発光性・安定性をもつ機能化量子ドットの合成と培養組織内動態の解明(研究1~2年目計画)」のために細胞標的指向性分子-量子ドット複合体の開発に着手した。量子ドットに対してポリエチレングリコール鎖を介して水酸基(中性)およびカルボン酸(アニオン性)を接合した量子ドットを合成した。また、量子ドットに対して癌細胞マーカーとして良く知られているCD44抗体およびEpCAM抗体を接合した複合体も作成し、血液モデルのPBMC中から癌細胞を選択的に癌細胞認識できることを確認した。当該量子ドット-抗体複合体は現在、膵がん細胞における取り込み挙動を、2次元培養および3次元培養にて検討中である。また、量子ドット自体の光安定性についても検討を行い、光照射強度に応じて表面エッチングが起きる一方、光強度の制御や量子ドット表面組成によって細胞毒性を抑え得ることを見出した。 また「(II):マイクロ組織内の分子動態解明を利用した高効果光がん治療薬の開発(研究2~3年目計画)」に関して、その前段階として光増感剤の開発検討を行った。我々がこれまでも研究に用いているπ拡張型ポルフィリン分子(rTPA)について、量子ドット表面への担持やナノカーボン表面への担持を行い、その光増感性能(=一重項酸素発生能)の検証を行った。その結果、量子ドット表面への直接不可は、分子凝集などが原因となり十分な一重項酸素発生能を発揮しない一方、ナノカーボンの1種であるカーボンナノホーンに担持したrTPAは十分な一重項酸素発生能と殺がん効果を発揮し得ることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初計画通り「(I):3D培養系で高い浸透性・発光性・安定性をもつ機能化量子ドットの合成と培養組織内動態の解明(研究1~2年目計画)」のために細胞標的指向性分子-量子ドット複合体の開発に着手し、量子ドットに対してポリエチレングリコール鎖を介して水酸基(中性)およびカルボン酸(アニオン性)を接合した量子ドットを合成した。量子ドットは組成によって、水中で用いる際に良分散できるポリエチレングリコール鎖長や数、表面電荷に差異がある。初年度の検討により我々の用いるCdSe/CdS量子ドットおよびCdSe/CdS/ZnS量子ドットの良分散のための化学修飾条件を見出した。また、量子ドットに対してCD44抗体およびEpCAM抗体を接合した複合体も合成完了し、癌細胞への選択能を確認した。また「(II):マイクロ組織内の分子動態解明を利用した高効果光がん治療薬の開発(研究2~3年目計画)」に関して、その前段階として量子ドットに光殺がん化合物を担持した量子ドット-rTPA複合体のプロトタイプ作成も完了し、殺がん効果を確認した。量子ドットを用いないアプローチとして、カーボンナノホーン-rTPA複合体の作成も完了し、光増感作用による一重項酸素の十分な発生能を確認した。さらには、量子ドットの潜在的毒性制御の知見も得るとともに、これを防いで無毒化するために、シリカコートした量子ドットの作成も完了した。 研究は申請書記載の当初計画案にそっておおむね順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに得られた量子ドット複合体群およびナノカーボン複合体群を用いて「(II):マイクロ組織内の分子動態解明を利用した高効果光がん治療薬の開発(研究2~3年目計画)」に関して2次元細胞および3次元細胞内での動態検証と殺細胞効果実証を行う。レーザー顕微鏡を用いたミリ秒~秒スケールの1分子レベル観察により、細胞膜上の分子ダイナミクスと移送関連タンパク質の精密挙動を明らかにする。より長時間スケールの観察により、細胞-細胞間移送を含んだ長時間・長距離の分子ダイナミクスと関連たんぱく質を明らかにする。この観察結果から細胞表面タンパク質を介した細胞-細胞間隙での分子動態解明と、3D培養系の違いに由来する分子挙動を解明する。得られた知見をフィードバックし、「(I):3D培養系で高い浸透性・発光性・安定性をもつ機能化量子ドットの合成と培養組織内動態の解明(研究1~2年目計画)」として最適化された細胞標的指向性分子-量子ドット複合体を完成させる。量子ドット表面への化学修飾について、カチオン性の付与や、機能性ペプチド(TATペプチドとエンドソーム脱出ペプチドを想定)と量子ドットとの複合化を行い、細胞貫通性や細胞浸潤性を付与する。そして、これらを光増感分子を組み合わせ、3次元殺がん化合物を作製する。 光増感剤について、すでに用いているrTPAの他に、近赤外光を効率よく吸収し、殺がん細胞効果を発揮する分子あるいはナノ物質の新規開発も行い、最終目的化合物のバリエーションを増強する。 さらに、リポソーム型ドラッグデリバリキャリアとの複合化による機能化を検討する。内包させる殺がん化合物の極性とキャリアの組成のマッチングをもとにした、殺がん効果の最適化や、細胞内動態の最適化を行う。
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