研究課題/領域番号 |
21H01766
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
下條 冬樹 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (60253027)
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研究分担者 |
高良 明英 熊本大学, 技術部, 技術専門職員 (70537092)
島村 孝平 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 助教 (60772647)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 構造不規則系 / 非断熱・非平衡現象 / 第一原理計算 / 分子動力学法 / 機械学習 / 計算物理 |
研究実績の概要 |
各種計算物理学的手法を駆使して、構造不規則凝縮系における光誘起相転移、励起子ダイナミクス、エネルギー輸送、構造変形・回復機構等の微視的機構を明らかにすることを目的として研究を実施している。まず、強誘電物質中での低エネルギー障壁機構による非断熱・非平衡現象に注目した。具体的には、強誘電体PbTiO3と常誘電体SrTiO3を層状に積層した系に対して、第一原理計算の結果を機械学習させて光励起の影響を力場に取り込むことにより大規模分子動力学シミュレーションを実行した。その結果、光励起による位相幾何学的な分極秩序(スキルミオン)出現のダイナミクスを再現することに成功した。光励起による各種デバイス制御への応用に資する成果である。 銀カルコゲナイドは熱電性能に優れた材料であり、その熱伝導度の温度依存性を解明することは、熱整流素子への応用を図る上で重要である。人工ニューラルネットワークを用いた機械学習力場を用いて、熱流を計算する際の厳密な表式を導出し、第一原理計算に匹敵する高精度で格子熱伝導度を理論的に計算する手法を確立した。これにより、格子熱伝導度の温度依存性を定量的に再現した。 硫化銀は室温において金属と同程度の延性を示し、イオウをセレンで60%程度置換しても延性は維持されることが知られている。様々な組成に対し室温でせん断変形シミュレーションを第一原理的に行い、構造回復の様子を調べ、延性発現の機構を解明した。この知見は、フレキシブルなデバイス応用を考える際に有用である。 その他、光励起によるダイアモンドのグラファイト化機構、酸化チタンナノシートと金属電極間の界面特性、層状アルミナの誘電率の膜厚依存性、アルカリ金属混合系の融点の組成依存性等の解明のための研究にも着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各研究テーマに対して第一原理計算、機械学習力場による分子動力学計算等を実行し、その結果から多くの知見を得ており、研究進捗状況は概ね順調である。機械学習力場を用いた熱流計算においては、当初、圧力テンソルを機械学習する必要性があることは想定していなかったが、これを行うことにより熱伝導度計算の精度を飛躍的に向上させることができた。圧力学習の重要性は固液相転移を機械学習力場で再現する上でも重要であることも示した。また、硫化銀の延性発現機構に関しては、当初は、単斜晶系の層構造が構造回復に重要な役割を果たすという予想であったが、回復の機構は層構造とは無関係であり、全く新しい機構で構造回復が起こることを明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
層状PbTiO3/SrTiO3系に対してはほぼ当初の目的は達成しているが、SrTiO3を古典モデルで扱っている点が不十分であるので、今後第一原理計算の結果を機械学習させた力場を応用したい。銀カルコゲナイドの格子熱伝導度計算においては、各種成分分析やスペクトル解析による熱伝導度の精密解析を行い、格子熱伝導機構の解明に取り組む。更に、機械学習力場を、温度勾配を与えた大規模非平衡分子動力学計算に応用し、異なる相が存在する場合の格子熱伝導機構の探求へ展開したい。また、銀カルコゲナイドのせん断変形シミュレーションにおいても、より現実的な構造回復機構を探るために、機械学習力場を用いた大規模分子動力学シミュレーションへ取り組む予定である。
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