研究課題/領域番号 |
21H01770
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
Korchev Yuri.E. 金沢大学, ナノ生命科学研究所, リサーチ・プロフェッサー (10817349)
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研究分担者 |
周 縁殊 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 特任助教 (60758556)
高橋 康史 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 特任教授 (90624841)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 細胞の表現型 / 遺伝子 / 単一細胞解析技術 / イオンコンダクタンス顕微鏡 / 癌細胞 |
研究実績の概要 |
SICM のピペット先端にセンサーを搭載し、形状とともにpHe、ROS 産生能、硬さなどの表現型を単一細胞レベルでイメージングした。その後、同一のピペットで細胞質を回収し、遺伝子発現評価を行った。pHe やROS 産生能は、癌細胞の代謝状態やミトコンドリア活性と関連し、癌の増殖と密接に関わっている。そこで、SICM のナノピペットに、グルコースオキシダーゼとポリL リシンの混合液を充填し、グルタルアルデヒドで架橋し、薄膜状のpH 感受性の膜をナノピペットの先端に有するpH プローブを独自開発した。また、ナノピペット内にカーボン電極を形成し、その表面にPt を電着させることで、電気化学的な細胞内のROS 計測も実証済みである。癌細胞の硬さは、細胞骨格と密接に関係しており、浸潤や転移のしやすさを示すバイオマーカーである。SICM では、イオン電流を利用しているため、細胞にほぼダメージを与えずに、高感度に硬さの違いを計測できる。 遺伝子発現評価に関しては、これまでの手法は細胞を破砕するため、時々刻々と変化する細胞内の遺伝子発現状態を知ることは困難であった。SICMナノピペットを用いた細胞質のサンプリングでは、微小量の細胞質を複数回回収できるため、同一の細胞のmRNAの局在や動態を評価できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SICMを用いて、細胞にほぼダメージを与えずに、微弱な硬さの違いを計測する手法を確立した。また、ナノピペット内にカーボン電極を形成し、その表面にPt を電着させることで、電気化学的な細胞内のROS 計測も実証済みである。遺伝子発現評価に関しては、これまでの手法は細胞を破砕するため、時々刻々と変化する細胞内の遺伝子発現状態を知ることは困難であった。SICMナノピペットを用いた細胞質のサンプリングでは、微小量の細胞質を複数回回収できるため、同一の細胞のmRNA の局在や動態を評価でき、既にナノピペットで回収した細胞質からのmRNAの評価に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
乳癌の発生には、エストロゲン濃度の低下が密接に関わっている。このようなホルモン濃度に依存した細胞の変化を捉えるため、表現型と遺伝子発現状態の関係を明らかにする。先行研究として、癌の悪性度を示すがん幹細胞マーカーCD44 にGFP を発現させ、癌幹細胞を選択的に計測した。また、一般的なシングルセルゲノミクスから、TMSB4X およびATP6V1F の発現が有意に高かった。TMSB4X がコードするタンパク質は、ATP 合成酵素の活性を正に調節して、癌細胞の細胞内空間から細胞外空間にプロトンを輸送する。ATP6V1F がコードするATP駆動の液胞プロトンポンプ(V-ATPase)は、癌細胞による細胞外酸性化の調節に関与する。このように、pHe マッピングと遺伝子解析からホルモン濃度と癌の悪性度に関して、相関性があることがわかり、本研究では、さらに、癌の浸潤と関連する細胞の硬さや、ROS の産生能と遺伝子の発現状態の関係を調べる。また、従来法ではできなかった単一細胞レベルでの表現型と遺伝子発現状態を評価する。ドキソルビシンを添加した先行研究では、すでにROS 産生量が増加することを確認している。また、細胞の硬さ計測の予備実験として、抗がん剤としても知られる微小管合成阻害剤であるタキソール処理前後でのA375 メラノーマ細胞の硬さのイメージングを行い、経時的な硬さの変化を確認するとともに、本手法をCD44GFP-high MCF7 に適応することで癌の浸潤のメカニズムを明らかにする。
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