研究課題/領域番号 |
21H01784
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
名村 今日子 京都大学, 工学研究科, 准教授 (20756803)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 蒸気バブル / 核形成 / マイクロ物体駆動 / 光熱変換 / ナノ構造薄膜 |
研究実績の概要 |
本研究では,μm・nmスケールでのバブルの生成消滅過程や挙動を理解し,小さな物体の動きの制御に役立てようとしている.本年度は,強い力を生むことのできる蒸気リッチバブルの安定生成条件のより詳しい検討を行った.前年度に発見した蒸気リッチバブルの連続安定生成条件について,バブルが安定するメカニズムの解明を試みた.そのために,蒸気リッチバブルから空気リッチバブルに遷移する時に起こっているバブルの動きの変化を高速度カメラで捉えた.これによって,蒸気リッチバブルから吐き出された空気リッチバブルの引き戻し現象が,空気リッチバブルの成長のトリガーとなっていることを明らかにした.さらに,この時のバブルの動きが,バブルに働くマランゴニ力と抗力によって説明できることを明らかにした.この他にも,蒸気リッチバブルの特徴であるバブルの振動と,水中溶存気体量との関係について詳しく調べた.その結果,バブルの大きさが,バブルに取り込まれた空気の量によく相関することがわかった.また,バブルが小さいほど,振動周波数が大きくなることも確認できた.特に興味深いのは,バブルに取り込まれる空気の量は水中溶存気体量が9.5ー11.5 mg/Lという比較的小さい範囲の間で大幅に変化し,バブルの振動が劇的に弱くなることである.バブルをつかった物体駆動においては,バブルの振動が重要になってくるため,この知見は物体操作への応用において重要となる.この他にも,空間位相変調子を用いたレーザー多点同時照射を活用し,バブルを複数生成することで,それらの相互作用を明らかにした.この相互作用については,レイリープレセット方程式にバブルの相互作用の項を追加したもので,よく説明できることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は,主に(A-3)蒸気リッチバブル連続生成条件の探索,(B-2)壁面状態が気液固境界の滑りに伴う力の発生に与える影響の解明,(C-1)熱源の3次元的なデザインによるバブルの形成位置と動きの制御,(C-2)空間位相変調子を用いた複数バブルの生成と相互作用の解明を行う予定であった.これらについて,以下の通り進捗があったので,本研究課題は概ね順調に進んでいると判断した. まず,(A-3)蒸気リッチバブル連続生成条件の探索については,前年度に連続生成条件に関する重要な発見が得られていた.そのため,その連続生成条件のより詳しいメカニズム解明を進めることができた.特に,非脱気水での蒸気リッチバブルの安定生成条件を詳しく調べることで,それ以外の流体中での安定生成条件の理解につながることがわかった.また,これまで脱気,非脱気という定性的な溶存気体量の指標を用いていたが,ガスクロマトグラフィーを用いて水中溶存気体量をより定量的に調べることで,バブルの状態と水中溶存気体量との関係を明らかにすることに成功した.これらの結果は,蒸気リッチバブルを使った物体駆動の信頼性を高めるための重要な知見である.(B-2)壁面状態が気液固境界の滑りに伴う力の発生に与える影響の解明については,SAM膜を活用して壁面状態を変えて流れの変化を調べた.また,(C-1)熱源の3次元的なデザインによるバブルの形成位置と動きの制御については,ナノ構造薄膜上での気液界面近傍の流れの変化について議論を進めた.さらに,(C-2)空間位相変調子を用いた複数バブルの生成と相互作用の解明については,2つのバブルの相互作用について,そのバブルの周波数変化の定式化まで行うことに成功した.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,蒸気リッチバブルの生成消滅過程の検討および蒸気リッチバブルを用いた物体駆動手法の確立を目指している.当初は蒸気リッチバブルを保持することに注力していたが,これまでにバブルの生成条件次第で,周辺対流の速さを増強できる可能性があることを掴んだ.これは当初予定していなかった発見である.このような駆動力の増強は,物体駆動において大変重要である.そこで,計画書には記載されていないが,蒸気リッチバブルが生み出す力の増強メカニズムの解明についても,本年度の研究計画に加えることにする.これまでに作製した光学系を利用して,加熱中の蒸気リッチバブルの振動を超高速度カメラで捉え,バブルの振動によって発生する力の評価を行う.また,定量位相顕微鏡を用いてバブル周辺の温度分布を評価し,マランゴニ力の推定を行う.これに加えて,計画通り,(C-1)熱源の3次元的なデザインによるバブルの形成位置と動きの制御および,(C-2)空間位相変調子を用いた複数バブルの生成と相互作用の解明を引き続き行う.特に,上記のバブルが生み出す力の増強と力の向きの制御を両立できるかどうかを確認し,物体駆動の実現可能性を高める.また,複数のバブルが生成した時のバブルの挙動を超高速度カメラで捉え,相互作用によるバブル周辺の流れの変化などを明らかにし,物体駆動への活用方法を模索する.最終的には,これらの知見を生かして(D)マイクロ流路内での空間的時間的にフレキシブルな物体駆動への挑戦を行う.作製したマイクロチップを任意の位置へ動かしたり,回転させたりするデモンストレーションを行う予定である.以上の研究を行うために,流体セルやトレーサー粒子,薄膜成膜材料の購入および駆動用チップの外注作製などを行う.また,得られた成果は応用物理学会などで発表する予定である.
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