研究課題
超伝導バルクは形状を変化させることでテスラ級磁場を捕捉(発生)する疑似永久磁石または磁場を収束する磁気レンズとして動作する。本研究では,両者の協奏により一般的な超伝導電磁石に匹敵する10テスラ級強磁場をセンチメートルサイズのMgB2超伝導バルクによって発生させることを目指している。その実現に不可欠な大型のリング型MgB2バルクを浸透法によって作製することを試みた。さらに,高磁場中での超伝導特性(臨界電流密度や捕捉磁場特性)の向上に有効であるTiを添加することも併せて実施した。Tiを10%ドープしたMgB2バルクを浸透法で作製できるようになった。その捕捉磁場は20 Kにおいて2.01テスラであり,バルク磁石として十分動作する特性を示した。MgB2バルク磁石の解決すべき課題に動作温度(~10 K付近)が低い,すなわち比熱が小さいことに起因する磁気的不安定性がある。低温で比熱が大きい希土類系化合物を混在させることにより,この問題を解決することを試みた。La2O3を前駆体Bペレットに添加して浸透法でMgB2バルクを作製した。その結果,希土類系化合物LaB6が混在するMgB2バルクが得られた。しかし,La2O3添加MgB2バルクの捕捉磁場は無添加バルクに比べて低下したことから添加量が過大であったと考えれられ,今後添加量の最適化が必要である。MgB2バルクの磁石化には静磁場中で着磁する方法を通常用いるが,もう一つの方法にパルス着磁印加法がある。パルス着磁法は短時間で着磁を可能にする利点と同時に急激な磁束運動に起因する発熱により捕捉磁場の低下が起こるという欠点を有する。そこで,熱伝導の良い銅の薄板とMgB2バルクの複合体に対してパルス着磁を行った。その結果,銅板による熱はけよりも銅板に発生する渦電流による発熱の方が支配的となり,複合化の効果が得られないことが分かった。
2: おおむね順調に進展している
浸透法によりMgB2バルクが作製できるようになり,さらにTiドープによってバルク磁石として目安となる捕捉磁場2テスラ(於20 K)が得られた。また,希土類酸化物La2O3を前駆体に混合することで高比熱材料であるLaB6を内包するMgB2バルクが作製出来た。このように,当初の目的を概ね達成することができたことから上記の判断とした。
MgB2バルクについては,超伝導特性を向上させるTiなどの金属元素と高比熱物質を生成するLa2O3などの希土類酸化物を共ドープすることにより両特性を併せ持つバルクを作製する予定である。また,バルク磁石と組み合わせるMgB2バルク磁気レンズの作製とその磁場収束効果を明らかにする予定である。
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