研究課題/領域番号 |
21H01799
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
大江 純一郎 東邦大学, 理学部, 教授 (40510251)
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研究分担者 |
大槻 東巳 上智大学, 理工学部, 教授 (50201976)
河野 浩 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (10234709)
安立 裕人 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (10397903)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 異常ネルンスト効果 |
研究実績の概要 |
非一様な磁化構造を有する磁性体中の熱電効果について、理論的研究を行った。特に、磁性体中の集団励起であるマグノンが誘起する電流、スピン流について解析的、数値計算の両面から研究を行った。非一様な磁化構造として、結晶の反転対称性の欠如によるジャロシンスキー・守谷相互作用によるねじれた磁化構造に注目した。1次元的な螺旋構造や、2次元的なスカーミオン構造がある系に温度勾配を印加した場合、系に誘起される非平衡マグノン分布を数値計算により明らかにした。また、このマグノンにより熱電効果の増強や、スピン流が誘起されることを明らかにした。分担者の大槻は、開放系などの非エルミート系の対称性をエルミート系で議論できることに着目し,非エルミート系のアンダーソン局在の臨界指数がエルミート系に対応づけられることを示した。量子マグノンを記述するシュレーディンガー方程式は非エルミートとなり,上述よりこれもエルミート系に対応づけた。これより量子マグノンホール効果が量子ホール効果と等価であることを示した。また,量子ダイナミクスをlong-short term memory networkというタイプのニューラルネットワークで解析できることを示した。分担者の河野は、反強磁性体のスピン移行トルクとその散逸補正(α項)、減衰トルク(β項)の微視的計算を行った。強磁性体との類似点・相違点に注意して整理する一方で、反強磁性体では2種類のスピン移行トルクが存在すること、スピン波のドップラーシフトには両方が同じ程度寄与することを示した。伝導電子のホッピングを調節することにより、反強磁性のトルクと強磁性のトルクを連続的につなげて議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、温度勾配中の磁化ダイナミクスやスピン波励起を計算するための数値計算プログラムを開発した。スピン系の相互作用として強磁性結合、ジャロシンスキー・守谷相互作用、双極子相互作用などを取り入れることができるが、計算機の性能限界により2次元系の計算までを行っている。また、伝導電子と局在磁化間のsd相互作用を考慮したハミルトニアンに得られた磁化ダイナミクスを組み込むことで、温度勾配下の電流を数値的に計算可能にした。このプログラムも計算性能のために、非常に小さな系でのみ計算を行っており、定性的な議論にとどまっている。また、スピン波波動関数を、AIを用いた画像解析により調べるため、long-short term memory networkというタイプのニューラルネットワークを導入した。また、反強磁性体のスピン起電力の計算に着手した。これらの研究は、(次年度に調べる予定である)反強磁性金属におけるマグノン・ドラッグ効果の物理的過程を議論する上でも欠かせない解析である。バンド電子と局在スピンの交換相互作用に起因するジャロシンスキー・守谷相互作用の理論解析を行った。まず、スピン軌道相互作用が強い系にも適用できる一般公式をファインマン図形の方法で導出し、自由エネルギーにおけるものとマグノンに対するものでは、一般に異なることを見出した。強磁性トポロジカル絶縁体とラシュバ強磁性体に対して具体的に計算し、これを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに開発した磁化ダイナミクスを計算するプログラムをGPU並列計算機用に改良することで、より大きな系での計算を可能にし、定量的な議論を行う。特に、3次元古典スピン系では、ねじれた磁化構造がhopfionと呼ばれる特殊な構造を取るため、温度勾配による運動を解析する予定である。また、磁化ダイナミクスから電流を計算するために、3次元の強束縛模型を計算するプログラムを作成する。このプログラムも、計算機メモリやGPU基盤の増強により定量的な議論を可能にする。また、温度勾配に対して垂直方向に発生するマグノンドラック効果の起源について明らかにする。候補としては、マグノン自体が横方向に散乱される効果や、縦方向に駆動された電流が横方向に散乱される効果が考えられる。これらの効果が磁化構造によってどのように増強されるかを明らかにする。また、マグノンの波動関数の画像解析から、より大きなマグノンドラック効果を得るための磁化構造の設計指針を明らかにする。
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