研究課題/領域番号 |
21H01801
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
荒岡 史人 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (10467029)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 液晶 |
研究実績の概要 |
本年度は、赤外-可視二重共鳴和周波分光(DR-SFG)の測定系構築を前年度に引き続き行ったほか、新規強誘電性ネマチック分子において赤外吸収分光による官能基の振動共鳴の測定を行った。DR-SFGでは、通常のSFGで用いられるよりも短い波長の可視光を利用することで、半共鳴状態での信号増強が可能となり、したがって基本的に可視域で透明であり本質的な信号が弱い強誘電性ネマチック液晶の系でも測定が可能となった。本年度は、赤外吸収分光により明らかとなっている分子内官能基の配向性と、分極の相関関係を探るところからスタートしている。赤外吸収分光測定においては、温度変化と相転移に応じて極性を司る官能基であるシアノ基やニトロ基の振動モードにわずかな周波数シフトが見られ、これらの分子長軸方向の相互作用が相転移に関連している可能性を示している。加えて、π-π相互作用のような分子横軸方向の相互作用がスメクチック構造といった2次元構造への発展に寄与していることが示唆された。また、軟X線を用いた炭素K端吸収測定を行った。X線の吸収スペクトルの温度依存性を測定したところ、長軸方向の相互作用に対応していると思われるs軌道由来の吸収ピークに顕著な変化が見られた。この挙動は、短軸方向の相互作用が強くなる通常のネマチック液晶とは逆の傾向であることを見だした。いずれも、今後の強誘電性ネマチック分子設計に重要な成果である。現在、それぞれ論文投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度末までに準備を行った、赤外光と可視光を同時波長掃引する赤外可視二重共鳴和周波分光(DR-SFG)を活用し、測定を開始してきている。これにより、赤外光による官能基の振動共鳴に加え、通常のSFGで用いられるよりも短い波長の可視光を利用することで、半共鳴状態での信号増強が可能となり、したがって基本的に可視域で透明であり本質的な信号が弱い強誘電性ネマチック液晶の系でも測定が可能となった。本年度は、赤外吸収分光により明らかとなっている分子内官能基の配向性と、分極の相関関係を探るところからスタートしている。赤外吸収分光において、温度変化と相転移に応じて極性官能基であるシアノ基やニトロ基の振動モードにわずかな周波数シフトが見られ、これらの分子長軸方向の相互作用が相転移に関連している可能性が示唆された。 これに加え、本年度は軟X線を用いた炭素K端吸収測定を行った。前年度は、炭素K端による共鳴X線散乱を用いた強誘電性の構造解析を計画通り行っていたが、散乱条件を探索する過程において軟X線吸収スペクトルに強誘電相転移に伴う信号変化が生じることに気がついた。これは当初の研究計画では予想されていなかったが、本研究の目的である強誘電性の起源追求のために有用な情報を与えると考えられるため、これを引き続いて行うこととした。本年度は、分子化学研究所UVSORの軟X線測定系を用いて、温度変化に伴う炭素K端吸収の変化をスペクトルとともに測定し、解析を行った。真空中で温度変化測定を行う専用のホットステージを用い、吸収スペクトルの温度依存性を測定したところ、長軸方向の相互作用に対応していると思われるs軌道由来の吸収ピークに顕著な変化が見られた。この挙動は、短軸方向の相互作用が強くなる通常のネマチック液晶とは逆の傾向であることを見だした。また、このことは上記、振動モードにおいて観測される長軸方向の相互作用が強くなることと矛盾しない。
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今後の研究の推進方策 |
測定については、次年度も引き続いて和周波発生分光(SFG)や共鳴X線散乱(RSoXS)、炭素K端X線吸収分光などを行ってゆく。SFGでは、特に個別の官能基の配向と分極の方向との相関、分極スイッチング下における信号変化などを調べてゆくことで分子自身の構造と応答性の関係を議論してゆく。RSoXSについては、現状では予想したクラスターのような構造を拾うことはできていないため本年度もこれを継続して行うが、一方で近いセットアップを用いた炭素K端X線吸収分光測定によって分子間の相互作用を解析できることが明らかとなってきており、この測定も同時に行ってゆく。 次年度はさらに、以上の実験によって得られた分子配向、その局所揺らぎや弾性変形による極性構造、分子間の相互作用に関する情報をもとに、物理的な安定化機構の記述を試みることで、強誘電性ネマチック液晶の完全な理解を目指す。このために、得られた揺らぎや弾性変形を特徴付ける粘弾性の異方性を測定する。具体的には、動的光散乱法やレオロジー(粘弾性)測定によって弾性係数テンソル、複素粘性率を温度の関数として評価し、これに双極子相互作用による寄与を加えることで、得られた構造による自由エネルギーを計算し、分極安定化の妥当性を評価する。これにより、粘弾性のある液晶性、ひいてはソフトマター系における強誘電性の実現に必要な因子を同定する。本実験では、電場下のレオロジー測定など、新しい物性の開拓も行ってゆく。
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