研究課題
金属酸化物ナノワイヤの原子スケール構造の透過型電子顕微鏡(TEM)その場観察と電気特性測定を同時に行うことを可能にするシステムの構築とその応用に取り組んだ。TEM観察用のMEMSチップの窒化珪素薄膜上に、フォトリソグラフィーとスパッタリングにより金配線を作成した。次に、集束イオンビームにより金配線を窒化珪素薄膜ごと一部切断し、空隙を作成した。この空隙に酸化チタンナノワイヤを架橋させ、両端にカーボンを堆積させて固定することで、ナノワイヤの構造と電気特性の同時解析システムの構築に成功した。本システムは金属酸化物ナノワイヤに限らず多くの材料に適用可能であり、様々な材料の電気特性と微細構造の関係解明に寄与することが期待できる。実際にTEM内で酸化チタンナノワイヤに電圧を印加することで、抵抗スイッチング現象を確認することができた。高抵抗状態と低抵抗状態の抵抗値は約1桁異なる。抵抗スイッチング前後で酸化チタンナノワイヤの微細構造に変化は観察されなかったが、酸化チタンナノワイヤ中の酸素濃度が低下していることが走査透過電子顕微鏡(STEM)-電子エネルギー損失分光法(EELS)により分かった。電圧印加による酸素濃度の低下によって抵抗値が変化したと考えられる。また、ハイエントロピー合金ナノ粒子が銅やパラジウムの単金属ナノ粒子よりも加熱した際の構造変化が小さく、熱的に構造が安定であることをTEMその場観察から明らかした。さらに、酸化タングステンナノワイヤを水素中で加熱した際に、表面から還元され、最終的に金属タングステンの多結晶に変化することを環境TEM観察により明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
主力装置の故障の修理に時間を要することもあったが、着実に研究を進めた。
これまでの研究によって作製方法を確立した、ナノ材料の原子スケール構造の透過型電子顕微鏡(TEM)その場観察と電気特性測定を同時に行うことを可能にするシステムを用いて、様々なナノ材料の構造と電気特性の関係を明らかにすることを目指す。酸化チタンナノワイヤの抵抗スイッチング現象その場観察には成功したが、リセット動作は実現できていない。これはTEM内が真空であることが原因の可能性がある。そこで、環境TEMにより、酸素中で抵抗スイッチング現象をその場観察することで、リセット動作が実現できるか試みる。また、真空中と酸素中で、抵抗スイッチング動作時の酸化チタンナノワイヤの構造や組成の変化に違いがあるか調べる。酸化タングステンナノワイヤは水素や一酸化炭素ガス中で電気抵抗が大きく変化することからガスセンサーとして動作することが知られている。水素や一酸化炭素ガス中でセンサーとして動作している状態で、酸化タングステンナノワイヤをETEM観察することにより原子スケール構造を明らかにし、さらに電子エネルギー損失分光法により電子状態を調べる。ガス中と真空中の各種ナノワイヤの原子スケール構造・電子状態を比較することで、センサー動作(抵抗値の変化)の原因を明らかにし、センサー動作原理に関する知見を得る。特に、ナノワイヤの表面および内部の酸化・還元状態に着目し研究を進める。
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