研究課題/領域番号 |
21H01826
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
上殿 明良 筑波大学, 数理物質系, 教授 (20213374)
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研究分担者 |
奥村 宏典 筑波大学, 数理物質系, 助教 (80756750)
秩父 重英 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (80266907)
石橋 章司 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 上級主任研究員 (30356448)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | II属窒化物半導体 / イオン注入 / 不純物活性化 / 点欠陥 |
研究実績の概要 |
本研究では、半導体デバイスとして使用されるIII属窒化物半導体のイオン注入により導入された点欠陥の同定とその焼鈍挙動を、点欠陥を直接検出することができる手法である陽電子消滅、また、フォトルミネッセンス、カソードルミネッセンス法、電気的特性評価等により研究する。得られた結果から、窒化物半導体の点欠陥の挙動、各種ドーパントとの相互作用を解明することが本研究の目的である。また、ドナー、アクセプターとして機能する原子だけでなく、活性化を阻害ないしは促進すると考えられている元素についてもイオン注入を行い、欠陥の回復過程にどのような影響を与えるかを調べる。 陽電子は物質中に入射すると電子と消滅しγ線が放出される。γ線のエネルギーはE=mc2で与えられ約511 keVとなるが、消滅前の電子の運動量によりドップラー効果が生じそのエネルギーが変化する。一方、陽電子は,原子核とのクーロン反発力のため,空孔型欠陥に捕獲される可能性がある。空孔中の電子運動量分布と完全結晶中の電子運動量分布は異なるため、消滅γ線のエネルギー分布を測定することにより空孔型欠陥を検出する。空孔中では電子密度が格子間位置に比較して低いことから、陽電子の消滅率は低下する。よって、陽電子の寿命を測定することでも空孔型欠陥を検出できる。陽電子消滅計算シミュレーションの結果と実験結果を比較することにより、空孔型欠陥の種類(サイズ、不純物との複合状態等)についての詳しい情報が得られる。本研究により、陽電子消滅と他の欠陥に敏感な手法を組み合わせることにより、III属窒化物半導体のイオン注入欠陥の特性を明らかにし、イオン注入によるIII族窒化物デバイスプロセスの発展に貢献したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Mgイオン注入GaNへNを連続注入した場合の空孔型欠陥とMg活性化の関係を研究した。GaNにMgを注入、表面近傍のMg濃度を1E19 cm-3とした。Mg注入後に、表面から300 nm程度までのNの箱型プロファイルを形成するためNを注入した。この箱型プロファイル中のN濃度は6E18 cm-3となった。イオン注入後、厚さ300 nmのAlN膜を試料上に形成、試料を1000℃から1300℃まで窒素雰囲気中で焼鈍した。焼鈍後にKOHを用いてAlNを除去した。 作成した試料についてエネルギー可変単色陽電子ビームを用いて陽電子消滅γ線ドップラー拡がり測定を陽電子打ち込みエネルギーの関数として測定した。得られた結果を、ドップラー拡がりの先鋭度を示すSパラメーター及びWパラメーターで評価した。また、同時計測ドップラー拡がり測定法を用いて、S/Nを上昇させた測定も実施した。測定は暗黒下及び試料へのHe-Cdレーザー照射時に行っている。加えて、産総研で開発された計算コードQMASを用いて、GaNの主な欠陥での陽電子消滅シミュレーションを実施、実験結果と比較することにより空孔型欠陥の種類を同定した。これらの実験により、N注入を行わない試料では、高温焼鈍によりMgが試料奥へ拡散するが、N注入によりこの拡散を抑制できることがわかった。この拡散抑制には、MgとN注入により導入された空孔型欠陥の強い相互作用によるものである。また、N注入により焼鈍後のMgの活性化率が上昇することも明らかにした。過剰にN原子が存在する焼鈍条件下での空孔とMgの反応がMgの活性化に影響を与えていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
イオン注入することにより導入されたGaN中の空孔型欠陥(主に空孔クラスター)への電子捕獲現象、また、電子を捕獲した空孔の電子放出現象について詳細を評価し、空孔型欠陥がどのようにキャリア数を抑制するかを明らかにする予定である。
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