研究課題/領域番号 |
21H01842
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
廣理 英基 京都大学, 化学研究所, 准教授 (00512469)
|
研究分担者 |
佐藤 駿丞 筑波大学, 計算科学研究センター, 助教 (90855462)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 半導体 / 反強磁性体 / 強結合 / メタマテリアル / テラヘルツ |
研究実績の概要 |
テラヘルツ(THz)周波数帯の電磁場の量子揺らぎやレーザーから発生したテラヘルツ波を、新規な金属メタマテリアル共振器(キャビティ)を通して閉じ込め、物質中の素励起であるフォノン(格子振動)やマグノン(スピン集団運動)との強結合状態を実現することで物性の制御を目指している。昨年度の研究では、独自に開発した金属メタマテリアル構造を使用して、テラヘルツ周波数帯に磁気共鳴を持つ反強磁性体における非線形スピンダイナミクスを調べた。具体的には、ニオブ酸リチウム結晶を用いたパルス面傾斜法を使用して強力なテラヘルツパルスを生成する光学系を構築した。このテラヘルツパルスは最大でピーク電場振幅が1 MV/cmに達した。さらに、サンプル内部でさらに高い強度のテラヘルツ磁場パルスを発生させるために、新しい金属マイクロテラヘルツ共振器を考案した。この共振器が、1テスラ以上の強力なテラヘルツ磁場パルスをサンプル内部に発生させられることを確認した。この強力なテラヘルツ磁場パルスは、直径が約数マイクロメートルの空間領域に制限されているため、空間的に局所的なファラデー回転を測定する顕微鏡システムを構築した。この測定システムを使用して、反強磁性体において誘起された巨大な磁化変化を測定し、スピンの歳差運動の非線形振動を観測した。さらに、室温付近でスピン再配列相転移温度を示す反強磁性体に対して、超高速なスピンスイッチングを実現した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
強いテラヘルツパルスの磁場成分を独自に開発したコイル型の金属メタマテリアル共振器構造により増強し、絶縁性の反強磁性体試料のスピンを直接励起することにより超高速な磁化制御を目標の一つとして研究を進めた。テラヘルツ光の磁場成分を物質内部で増幅できる、アンテナ付きらせん型共振器(SAR)を開発した。発生させた強力な磁場パルスの時間波形を観測し絶対値を評価するために、磁気光学サンプリング法を構築した。テルビウム-ガリウム-ガーネット上にSARを作製し、そのファラデー回転測定によって、最大磁場強度が0.96 T に達することを明らかにした。その他に、これまで、ハロゲン化ペロブスカイト半導体のフォノンをナノ構造の分割リング共鳴器(SRR)で真空光子に結合し、SRRのギャップを100nmに狭めていわゆる超強結合を実現した。実際に、強いフォノン吸収をもつペロブスカイト半導体試料上にキャビティ強結合するリング型の金属メタマテリアル構造を作製し、SRRの吸収ピークの周波数がフォノン周波数と等しいときラビ分裂を観測している。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、テラヘルツ周波数帯の電磁波と物質の素励起(フォノン、マグノン)とが強く結合させることが可能な金属構造を考案し作製してきた。特に、反強磁性体材料の結晶表面に螺旋型コイルの金属微細構造を設計および製作し、最大ピーク電場振幅1MV/cmに達するテラヘルツパルスを照射するにことにより、試料表面においいて数テスラに達するテラヘルツ磁場の生成を確認した。さらに、これによるスピン歳差運動の非線形な応答として第三高調波の観測にも成功し、磁場とスピン共鳴励起が前例のないほど強いことを確認した。今後は、これらの研究成果を基にして、反強磁性体材料において超高速なスピンスイッチングの定量的な評価と、その非線形な励起過程に関する考察を行い、磁化ダイナミクスの理解の深化を目指す。
|