研究課題/領域番号 |
21H01854
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
西 剛史 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 教授 (70518331)
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研究分担者 |
助永 壮平 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (20432859)
鈴木 茂 東北大学, マイクロシステム融合研究開発センター, 教授 (40143028)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ケイ酸塩融体 / 熱浸透率 / 表面加熱・表面検出レーザフラッシュ法 / 密度 / セサイルドロップ法 / 比熱 / 熱伝導率 |
研究実績の概要 |
高レベル放射性廃棄物処理において、固化用ガラス作製時に安定した溶融炉の操業ができないことが最も懸念されている。こうした溶融炉の正確な制御あるいはガラス作製時のトラブルを防ぐために、ガラス融体の熱伝導率と電気伝導率を操業前に把握する技術が強く求められている。より具体的には、ガラス融体の熱伝導率、電気伝導率を実測により高精度に評価し、NMR等を用いて推定したガラス融体のネットワーク構造から熱伝導のメカニズムを明らかにすることで、実操業におけるホウケイ酸塩融体の物性を把握できるデータベースを構築することが求められている。本研究では、従来測定が困難とされてきたケイ酸塩融体の比熱、密度、熱浸透率、電気伝導率を高精度に実測することを目指す。 手始めとして、文献値も存在する二元系アルカリケイ酸塩融体の熱浸透率と密度を測定した。測定試料として0.25R2O-0.75SiO2と0.33R2O-0.67SiO2(mol%) (R=Li,Na,K)を選択した。調製したカレット状のガラスを溶融し、表面加熱・表面検出レーザフラッシュ法により熱浸透率を、セサイルドロップ法により密度を測定した。密度の測定値は文献値と若干異なる値を示しており、測定系および溶融時に発生する気泡の影響を除去する対策が必要である。一方、熱浸透率の測定値は密度と比熱の文献値を用いて熱伝導率に換算したところ、一部文献値と異なる傾向を示したが、概ね文献値と一致する傾向が見られた。今回の実験では3回以上の実験を行い、再現性も確認していることから、高精度な熱伝導率が得られたと判断している。なお、R2O-SiO2(R=Li,Na,K)の熱伝導率の温度依存性は小さく、大きさはLi>Na>Kの順であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最大のミッションはケイ酸塩融体の比熱、密度、熱浸透率、電気伝導率を高精度に実測することである。進捗状況を以下の①~④に示す。 ① ケイ酸塩融体の比熱測定 ホウケイ酸塩融体の比熱を温度変調タイプの示差走査熱量計(DSC)を用いて測定する。DSCを用いた比熱測定では、空容器、標準試料、測定試料の3回の測定が必要になるが、通常のDSCでの比熱測定では容器と試料の接触の違いによる差が影響して測定精度が高くないのが現状であった。温度変調タイプのDSCではその差が出にくいため、高精度な比熱測定が見込まれる。現在、装置を導入し、固体を中心とした比熱測定の検証を行っている。 ②ケイ酸塩融体の密度測定 セサイルドロップ法にて二元系アルカリケイ酸塩融体の密度測定を行った。基板の材質はBN基板を用いている。溶融試料中の気泡を抜くのに時間を要したが、基板と試料との反応は最小限に抑えることができた。二元系アルカリケイ酸塩融体の密度は文献値があり、データを比較したところ大きな差がまだ生じていることが明らかとなった。 ③ケイ酸塩融体の熱浸透率測定 アルカリケイ酸塩融体の熱浸透率を測定し、密度と比熱の文献値を用いて熱伝導率を算出した。一部文献値と異なる傾向を示したが、今回の実験では3回以上の実験を行い、再現性も確認していることから、高精度な熱伝導率が得られたと判断している。 ④ケイ酸塩融体用の電気伝導率測定装置の開発 ケイ酸塩融体の電気伝導率を高温、大気圧でガスフロータイプの交流4端子法による電気伝導率測定装置を新たに開発するための装置の仕様を決定した。現在、九州大学のグループで溶融スラグの電気伝導率を系統的に測定されており、その装置を参考に装置を設計する方針である。
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今後の研究の推進方策 |
炉内状況を操業前に正確に予測できるシステムを構築するため、ケイ酸塩融体の熱伝導率、電気伝導率等の熱物性を高精度に実測する。今後の研究の推進方策を以下の①~④に示す。 ①ケイ酸塩融体の熱伝導率評価 ケイ酸塩融体の熱浸透率を表面加熱・表面検出レーザフラッシュ法を用いて測定する。表面加熱・表面検出レーザフラッシュ法により熱伝導率を算出するためには、熱浸透率の他に密度と比熱が必要となる。これまで密度は室温でのガラスの密度、比熱は各成分の融体の比熱の加成則から算出していたが、セサイルドロップ法にて密度を、温度変調タイプのDSCにて比熱を測定することで、全て実測値を用いた熱伝導率を高精度で系統的に評価する。密度の測定については、体積算出ための補正の仕方の見直しや試料から発生する気泡の対策を講じる必要がある。 ②ケイ酸塩融体用の電気伝導率測定装置の開発 ホウケイ酸塩融体の電気伝導率を交流四端子法により測定するため、高温、大気圧でガスフロータイプの電気伝導率測定装置を新たに開発する。この装置を用いて、ホウケイ酸塩融体の電気伝導率を系統的に測定し、溶融炉を操業するためのジュール熱を正確に見積れるレベルの誤差評価を行った電気伝導率を系統的に測定する。正確に電極の微小距離を移動させるユニットなどの工夫を九州大学のグループの装置を参考にして設計する予定である。 ③ホウケイ酸塩融体のネットワーク構造の推定 NMRスペクトルからホウ素の配位数を明らかにすることにより、ネットワーク構造を推定し、得られた熱伝導率データを検証する。 ④ガラス溶融炉内状況予測システム構築 ①~③で得られた一連の測定から、比熱、密度、熱伝導率、電気伝導率を各測定温度の組成依存性の傾向を見出し、組成と温度をパラメータとした評価式を構築すると共に、高レベル放射性廃棄物処理により適したホウケイ酸塩ガラスの探索につなげる。
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