研究課題/領域番号 |
21H01874
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
渡邉 昇 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (90312660)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 原子・分子物理 / 電子分光 |
研究実績の概要 |
短寿命共鳴状態にある分子内の電子挙動を可視化する測定手法を開発し、共鳴遷移を経由して進行する分子過程の駆動原理を明らかにすることが本研究課題の目的である。本年度は、昨年度より開始した六フッ化硫黄分子(SF6)のinner valenceイオン化領域に対する(e, e+ion)測定を完了させるとともに、データ解析を行った。非弾性散乱電子と解離イオンとを同時計測する(e, e+ion)実験では、電子衝突で生成した親分子イオンの解離経路がイオン生成時の電子状態に強く依存することから、イオン化チャンネル毎の寄与を分離することが可能である。これに加え、以前求めたSF6の一般化振動子強度を用いて実験値を規格化することで、解離イオン収量を絶対値として決定した。個々のイオン収量スペクトル上には、対応するイオン化遷移で生じる形状共鳴のバンドが観測され、それらの移行運動量に依存した強度変化をとらえることに成功している。観測した共鳴バンドの殆どが移行運動量の増加に伴い急激に強度が減少する、双極子許容遷移に特有の振る舞いを示した。唯一の例外は4t1u → εt2g形状共鳴であり、四重極以上の高次多重極相互作用の寄与が大きくなる大移行運動領域でも明瞭に観測され、この特異な振る舞いが電子衝突誘起によるSF3+生成に大きく寄与していることが明らかとなった。更に、解離イオンの運動エネルギー分布を解析することで、SF6のイオン化解離機構の解明を試みた。その結果、SF4+の生成において、SF6+が高速に内部転換した後に逐次的に二つのFを放出していることを突き止めている。以上の結果を論文としてまとめ、公表した。さらに、SF6とは異なる対称性をもったポテンシャル中での準束縛電子の振る舞いを明らかにすべく、四フッ化炭素(CF4)を対象とした測定を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SF6において特異な移行運動量依存性を示す共鳴遷移を見出し論文発表するとともに、CF4を対象とした(e, e+ion)実験も順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
非弾性散乱電子と解離イオンを同時計測する(e, e+ion)分光実験により、形状共鳴領域における電子散乱断面積の移行運動量依存性を精査し、準束縛電子の波動関数形状との関係を明らかにする。SF6分子を対象としたこれまでの測定より、個々の形状共鳴において異なる移行運動量依存性が観測された。中でも、四重極以上の多重極遷移の寄与が増す大きな移行運動量条件においても強度が殆ど減じない特異な共鳴遷移が存在し、それがSF3+解離イオンの生成に大きく寄与していることを見出している。本年度は、昨年より開始したCF4に対する測定を完了させ、SF6に対して得られた知見と組み合わせることで、多重極相互作用が大きく関与する荷電粒子誘起イオン化での共鳴遷移の発現と、その遷移確率や後続緩和過程に与える影響の統括的な理解を目指す。さらに、散乱断面積の分子方向依存性を系統的に調査し、ポテンシャル障壁内に捕らわれた電子の波動関数形状を決定する手法の確立に向けた基盤を構築する。
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