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2021 年度 実績報告書

脂質ナノ粒子の細胞内輸送の分子動力学:核酸エンドソーム脱出の分子機構

研究課題

研究課題/領域番号 21H01880
配分区分補助金
研究機関岡山大学

研究代表者

篠田 渉  岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (70357193)

研究分担者 浦野 諒  岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特任助教 (00836976)
研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2025-03-31
キーワード脂質ナノ粒子 / エンドソーム脱出 / 分子シミュレーション / 粗視化力場 / 自由エネルギー解析
研究実績の概要

脂質ナノ粒子(LNP)のエンドソーム脱出を分子動力学(MD)シミュレーションで解析し、その分子機構を明らかにすることを目的としており、当該年度においては、まず、核酸と脂質の複合構造であるLNPとエンドソーム膜の分子モデリングを中心に行った。dsDNAに標準系の脂質(1,2-dilinoleyloxy-3-dimethylaminopropane (DLin-MC3-DMA),コレステロール(Chol), ホスファチジルコリン(PC)脂質)を混合してできたLNPのMD計算を行った。カチオン性脂質(DLin-MC3-DMA)のpH変化に伴うイオン化状態の変化を考慮した粗視化(SPICA)力場を作成し、約30nmの直径のLNPのMD計算を実行した。DLin-MC3-DMAのイオン化状態の変化は、LNP構造を大きく変化させ、特にdsDNAのLNP内包状態が変化することがわかった。また、エンドソーム膜のモデリングを行い、実験情報に合わせた脂質組成を持つエンドソーム膜モデルをSPICA力場で作成した。コレステロールを含む5種の異なる脂質の混合膜としてモデルを作成し、大きなドメイン構造を持たないことを確認した。さらに、LNPとエンドソーム膜の相互作用を確認する分子動力学(MD)シミュレーションを行った。LNPは中性条件ではエンドソーム膜と積極的な相互作用を示さなかったが、酸性条件においては静電相互作用によってエンドソーム膜に強く吸着することがわかった。吸着後の融合プロセスは非常に長時間を要するため、律速段階であるLNPとエンドソーム膜間の吸着表面の脱水和を人工的にさせ、その後の融合の進展を観測した。現在、融合シミュレーションの途中であるが、数µs以上かけて構造緩和をしながら融合が進む様子が見られた。次年度以降にも継続して融合MD計算を実行する必要がある。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

当初予定していた分子モデリングは順調に進み、それぞれ予定より早く完成したため、LNPとエンドソーム膜の融合に関する試行的な分子動力学(MD)シミュレーションまで行うことができている。LNP中の中性脂質がpH低下に伴いカチオン性脂質に変化するのに伴い、LNP-エンドソーム膜間の相互作用が強く引力的になり、短時間でLNPがエンドソーム膜表面に吸着することが判明した。融合は、短時間では起こらないプロセスあることがわかり、外部からの摂動を与えて現象を確認する必要があるが、一旦、結合したLNPは徐々にその脂質をエンドソーム膜に供与し、すなわちLNP脂質はエンドソーム膜に吸収されるということが確認された。

今後の研究の推進方策

LNP-エンドソーム膜間の融合に関するMDシミュレーションを継続して行う。また、融合エンドソーム内外でpHが異なる条件下であり、pHを制御する計算手法の開発を行う予定である。SPICA力場に対して有効なpH一定の計算手法を開発し、融合系のMDに適用することで、核酸のエンドソーム脱出の分子機構を明らかにする。また、異なるカチオン性脂質についてもSPICA力場ライブラリを拡張し、MD計算を行うことで、カチオン性脂質の構造特性が、エンドソーム脱出に与える影響を明確化していく。さらに、これまでの検討では、エンドソーム膜を平面膜として扱ってきたが、エンドソーム全体系を扱い、ベシクル状エンドソームからのLNPの脱出機構をMD計算によって観測・解析することを最終的な目標とする。

備考

当グループで開発している粗視化モデルのSPICA力場を公開している。本課題においても、DNA, RNAや脂質モデルを開発しており、これらを順次このホームページ上で公開していく。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2022 2021 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] SPICA Force Field for Proteins and Peptides2022

    • 著者名/発表者名
      Kawamoto Shuhei、Liu Huihui、Miyazaki Yusuke、Seo Sangjae、Dixit Mayank、DeVane Russell、MacDermaid Christopher、Fiorin Giacomo、Klein Michael L.、Shinoda Wataru
    • 雑誌名

      Journal of Chemical Theory and Computation

      巻: 18 ページ: 3204~3217

    • DOI

      10.1021/acs.jctc.1c01207

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Cooperative antimicrobial action of melittin on lipid membranes: A coarse-grained molecular dynamics study2022

    • 著者名/発表者名
      Miyazaki Yusuke、Shinoda Wataru
    • 雑誌名

      Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Biomembranes

      巻: 1864 ページ: 183955~183955

    • DOI

      10.1016/j.bbamem.2022.183955

    • 査読あり
  • [学会発表] 生体膜・脂質膜の分子シミュレーション2022

    • 著者名/発表者名
      篠田 渉
    • 学会等名
      高分子計算機科学研究会
    • 招待講演
  • [学会発表] Coarse-Grained Molecular Dynamics of Biomolecular Self-Assembly: Membranes, Vesicles, Lipid Nanoparticles, Virus Capsids2021

    • 著者名/発表者名
      篠田 渉
    • 学会等名
      Pacifichem2021
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 生体高分子集合系の分子シミュレーション2021

    • 著者名/発表者名
      篠田 渉
    • 学会等名
      第16回複雑生命系秩序懇談会
    • 招待講演
  • [学会発表] 分子シミュレーションを用いた抗菌ペプチドの膜選択性の解明2021

    • 著者名/発表者名
      川端一正、宮﨑裕介、篠田渉
    • 学会等名
      第35回分子シミュレーション討論会
  • [学会発表] エタノール混合によるベシクル構造転移:マルチラメラ形成機構2021

    • 著者名/発表者名
      柴田果奈、真栄城正寿、渡慶次学、篠田渉
    • 学会等名
      第35回分子シミュレーション討論会
  • [備考] SPICA Force Field

    • URL

      https://www.spica-ff.org

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公開日: 2022-12-28  

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