研究課題
今年度は、M2R選択的なNAMの一つ、アルクロニウムと作動薬あるいは阻害薬の共存条件下での全反射赤外分光測定を行った結果、アルクロニウムの存在により作動薬についてはM2Rからの解離による結合スペクトル強度の減少、阻害薬については結合スペクトル強度の増加が観測された。さらに、詳細な解析の結果、アルクロニウムによる作動薬に対するアロステリックな阻害効果、および阻害薬に対する結合促進効果に反映した、M2Rの協同変化を示す差スペクトルを抽出することに成功した。これらの結果より、赤外分光法を用いることで、GPCRのアロステリック効果を原子レベルで捉えられることを実証した。また、アロステリックリガンドの濃度依存性など、物理化学的なパラメーターの取得にも成功している。さらに、リガンド結合部を構成するアミノ酸の変異体に対する測定により、赤外信号の帰属も達成し、これらの結果をまとめて、M2Rに対するNAMによるアロステリック効果を議論した論文を投稿予定である。一方で、Gタンパク質との結合誘起赤外分光解析を含めた、“タンパク質-タンパク質”相互作用解析の実現に向けて、光応答性GPCRであるロドプシンと抗体フラグメントとの結合誘起赤外分光解析を行った。そして、抗体フラグメントの選択的な結合によって、これまでに構造情報が未解明のロドプシン中間体の動的な構造変化情報を獲得し、その成果を論文に投稿、現在リバイズ中である。このように、“タンパク質―タンパク質”相互作用解析が可能になったため、今年度はM2RとGタンパク質フラグメント (mini Gタンパク質) との相互作用に伴う構造変化をスペクトル変化として取得することを目指す。すでに、大腸菌発現系によりmini Gタンパク質の精製試料を獲得している。今後は、作動薬とmini Gタンパク質の共存在下でのM2Rのダイナミックな構造変化解析を行う予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、M2Rを研究対象として、赤外分光法を中心とした構造解析を行い、物理化学的な観点からGPCRのアロステリックリガンド結合機構、作用機序、そしてアロステリックリガンドによって制御されるGタンパク質やアレスチンを介したGPCRのシグナル伝達機構を明らかにすることを目指している。すでに、3液交換系を確立し、アロステリックリガンドと作動薬および阻害薬との共存下でのスペクトル測定を可能にし、アロステリックリガンドの一つである、アルクロニウムによる作動薬に対する遠隔的 (アロステリック) な阻害効果、および阻害薬に対する結合促進効果に反映した、M2Rの協同変化を示す赤外差スペクトルを抽出することに成功している。さらに、アルクロニウムの濃度依存性や結合・解離速度定数など、物理化学的なパラメーターの取得も実現し、作動薬や阻害薬のパラメーターとの詳細な比較も可能になった。そして、リガンド結合部を構成するアミノ酸の変異体に対する測定により、赤外信号の帰属も実現しており、スペクトル基盤に立脚して、M2Rに対するNAMによるアロステリック効果のメカニズム解明を目指す。また、Gタンパク質との結合誘起赤外分光解析を含めた、“タンパク質-タンパク質”相互作用解析の実現に向けて、光応答性GPCRであるロドプシンと抗体フラグメントとの結合誘起赤外分光解析を通して、測定可能であることを実証した。従って、今後確立した測定系をM2RとGタンパク質との相互作用解析に適用することを試みる。
NAMであるアルクロニウムに対して実現した測定をPAMに適用することで、NAMとPAM両者のアロステリック効果の共通性・特異性を見出すことでGPCRアロステリーの全容解明を目指す。また、赤外分光法によるGタンパク質との相互作用解析を達成した先に、アレスチンや他のシグナル伝達タンパク質との相互作用解析に研究を展開する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 11件)
Physical Chemistry Chemical Physics
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