研究課題/領域番号 |
21H01892
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
歸家 令果 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (10401168)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 分子構造 / 化学反応 / 電子回折 / 電子散乱 |
研究実績の概要 |
本研究では、化学反応などの動的過程において、分子の振動核波束がポテンシャルエネルギー曲面上を超高速で動きながら分岐や合流を起こし、非断熱遷移や干渉効果によってその形状を複雑に変化させていく様子を、レーザーアシステッド電子散乱過程を利用した超高速時間分解電子回折法を用いて核間距離の分布関数の変化として観測することを目的とする。そのために、独自に開発したレーザーアシステッド電子回折法の時間分解能と空間分解能を向上させるとともに、信号検出効率を格段に向上させることによって、瞬間的な核波束形状の精密測定を実現する。 令和3年度は、既設の 1 keV 型電子銃の部品を極力再利用して、電子エネルギー 10 keVの光電陰極型パルス電子銃の開発を試みた。その結果、加速エネルギーが 6 keVを超えると電子銃部分で放電が起こることが判明した。また、加速エネルギーが 6 keVでのLAES測定を実施しようとすると、電子エネルギー分析器から迷電子背景信号が出てくることも判明した。そこで、電子銃の再設計のための電場分布シミュレーションを実施するとともに、加速エネルギーが 3 keVでの電子散乱信号の取得を進めた。加速エネルギーが 3 keVにおける電子エネルギー分析器の校正や検出器の感度補正用の実験データを測定するとともに、電子線と分子線、レーザーの時空間的な同期実験を実施することによって、レーザーアシステッド電子散乱測定のための予備実験を完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね当初の計画通りに研究を遂行したが、電子エネルギー 10 keVの光電陰極型パルス電子銃の開発は目標とした加速電圧に達することができなかった。このような事態は想定内ではあったが、電子銃の再設計を行う必要が生じた。 また、令和3年度に都立大化学科で火災事故があり、被災した建物の復旧の目処が立っていない状況である。復旧が大幅に遅れた場合は、今後の研究計画に支障が出る可能性がある。 一方で、令和3年度は、テラヘルツ波アシステッド電子散乱過程の観測に世界で初めて成功し、本研究課題の目標である高分解能レーザーアシステッド電子回折法の実現のさらに先の目標といえる高分解能テラヘルツ波アシステッド電子回折法の開発も現実的になってきた。 さらに、オーストリアのグラーツ工科大、ウィーン工科大との共同研究によって、超流動ヘリウム液滴中のレーザーアシステッド電子散乱過程の研究も進んでおり、レーザーアシステッド電子回折法の新たな可能性を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
電子エネルギー 10 keVの光電陰極型パルス電子銃を開発する。開発した電子銃の動作確認を行い、電子線パルスの発生条件を調整する。同時に、加速エネルギーが 3 keVにおけるレーザーアシステッド電子散乱信号を観測する。また、加速エネルギー 6 keV以上でのレーザーアシステッド電子散乱信号の観測を目指して、電子エネルギー分析器由来の背景信号の原因を突き止めて対策を施す。 電子エネルギー 10 keVでのレーザーアシステッド電子散乱信号の測定が可能になったら、電子エネルギー 10 keVでの電子回折像の測定を試みる。同時に、電子エネルギー 30 keVの光電陰極型パルス電子銃の開発を行う。そして、電子エネルギー 30 keVでのレーザーアシステッド電子散乱信号を観測するために実験装置の改良を進め、高分解能レーザーアシステッド電子回折法の実現を目指す。 火災によって被災した建物の復旧が大幅に遅れる場合は、出来る限り東大で実験を進めた後に、都立大に実験装置を移設して、装置群の再立ち上げを実施する。
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