研究課題/領域番号 |
21H01893
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
中谷 直輝 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (00723529)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | XANESスペクトル / 遷移金属錯体 / 時間依存DFT法 / CASPT2法 / 反応解析 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、遷移金属錯体の溶液中XANESスペクトルの計算解析をベースに、従来的な反応・物性の計算解析手法を組み合わせ、触媒活性種の同定や分子物性の解明に取り組んでいる。2022年度の研究実績は以下の通りである。 本年度は、計算解析が難しいとされるFe、Cuなどの3d遷移金属元素を含む錯体触媒の反応解析および溶液中K端XANESスペクトルの計算解析を行った。まず、クロスカップリング反応の触媒として報告のあるCu錯体について、DFT法および高精度電子状態理論の1つであるCASSCF/CASPT2法を利用した反応機構の計算解析を行った。Cu錯体による触媒的アリールクロスカップリング反応では、類似触媒系で提案されている酸化的付加・還元的脱離機構、1電子移動機構、ハロゲン移動機構のそれぞれについて検討を行い、酸化的付加・還元的脱離機構で進行することを明らかにした。また、反応全体に渡って基底状態は1重項状態となっており、3重項状態との系間交差は生じないことを明らかにした。また、Fe錯体による触媒的クロスカップリング反応では、前駆錯体となる基質複合体の構造とスピン状態が明らかになっておらず、溶液中K端XANESスペクトルの結果を、数種類の候補構造についての計算解析結果と比較することで、溶液中構造とスピン状態の関係について明らかにした。 2021年12月に起きた火災事故に係る復旧工事の完了が2023年度以降にずれ込んだため、年度当初に計画していた計算の一部が実行できない状況となったが、2023年度末までに予定していた事項について検討を終了することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画当初から目標にしていた3d遷移金属錯体のXANESスペクトル計算解析について、Fe錯体のK端XANESスペクトルのTDDFT法による計算解析を実施し、一定の有効性が認められた。このことは、K端XANESスペクトルを計算解析における構造や電子状態の指標データとして利用できることを意味しており、一般的に計算解析が困難とされる3d遷移金属錯体についても、DFT法などの簡便な手法を用いて実験結果との有意な比較・検証が可能であることを示唆する結果である。 また、Cu錯体の反応素過程の計算解析をDFT法およびCASSCF/CASPT2法を利用して実施し、電子相関効果が反応素過程に与える影響について理論化学的な観点から考察を行った。これらの結果を系統的に検証することで、DFT法およびCASSCF/CASPT2法による計算結果の妥当性を実験事実に基づいて論ずることが可能になると考えられる。 以上より、本研究課題の主旨であるハイブリッド計算解析の有効性が立証されたことにより、計画後半の実践的な応用研究に向けて概ね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
計画後半となる2023年度は、K端XANESスペクトル計算解析を基軸として、Fe、Ni、Cu錯体の触媒反応への実践的な応用計算研究を行い、XANESスペクトルの実測データとも比較することで、反応機構の全容解明を目指す。具体的には、Fe、およびCu錯体による触媒的アリールクロスカップリング反応、および、Ni錯体による触媒的アルケン重合反応の反応解析へ本手法を応用し、DFT法による汎用の計算解析、およびCASSCF/CASPT2法による高精度計算解析の結果と合わせて、溶液中の反応中間体構造の同定と反応素過程の詳細な解析を行う。 また、Fe錯体などの常磁性錯体において有効となるL端XANESスペクトルの計算解析手法の確立に取り組み、Fe錯体の溶液中構造とスピン状態との関係について、K端XANESスペクトルでは観測できていない、3d軌道由来の相互作用について考察を行いたい。
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