研究課題/領域番号 |
21H01898
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
坪内 雅明 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 光量子科学研究部, 上席研究員 (40392039)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 二次元振動分光 / 混合溶液 / 光音響波 / テラヘルツ |
研究実績の概要 |
1.光音響波発生 これまでテラヘルツ自由電子レーザー(THz-FEL)施設を用いて水中光音響波発生を行ってきたが、本研究では全て実験室内のレーザーで実験を完結させるために、高強度中赤外光誘起による光音響波発生法の開発を行った。THz領域では10 μJのパルス強度で5気圧程度の光音響波が発生したが、本年度実施した中赤外光励起でも10 μJ程度のパルス強度で同程度の光音響波発生に成功した。THz光は分子間振動、中赤外光は分子内振動の励起により水に吸収されるため、水中光音響波発生の初期過程である「光-熱エネルギー変換」過程に関わるダイナミクスは異なる。しかしいずれの過程からも同様な光音響波を発生したことから、初期吸収過程は光音響波発生過程(熱弾性過程)に影響を与えない事が示唆された。 2.二次元振動分光装置の開発 本研究の目的である「二次元振動分光装置」の開発のために、高強度中赤外光発生を行った。光パラメトリック増幅器から二つの近赤外光(シグナル光とアイドラー光)を発生させ、その差周波として中赤外光を発生させた。波長3.5~7μm、強度15μJ、パルス幅100 fs程度の中赤外パルス光が得られ、それを前述の光音響波発生と本二次元振動分光装置開発に利用した。 また、二次元振動分光装置を開発する前段階として、可視超短パルス光を用いた二次元電子分光装置の開発を実施した。こちらは振動ではなく電子状態間の相関、すなわち光励起により形成された励起電子状態と、遅延時間後に検出される電子状態との相関を観測する装置である。本装置を光受容性タンパク質に適用することで、二次元電子分光の実験及び解析手法を確立させ、それを二次元振動分光へと転用することが目的である。本年度は二次元電子分光装置の構築を終え、その長時間安定性、データ取得効率の向上に努めた。これまで一週間要した測定時間を7時間へと短縮に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目までの達成目標として、1.光音響波発生法の二次元振動分光適用に向けた改良、2.二次元振動分光装置の開発を挙げていた。 そのうち前者の光音響波発生法の改良は、テーブルトップ中赤外レーザー装置を用いて実施されており、ほぼ計画通りに進展している。 後者の二次元振動分光装置の開発は、赤外光の取り回しと調整が想定より難しい事がわかったため、まずは可視光を用いた二次元電子分光装置の開発を実施することにし、そちらはほぼ装置の完成に至った。 以上より、研究はおおむね研究計画通り順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、光音響波をさらに効率よく発生させ、二次元振動分光装置へ組み込むことを可能とする装置改良に取り組む。 また、可視光で構築した二次元分光装置を赤外光利用へと拡張させる必要があるが、まずは可視光での二次元電子分光装置を用いて、装置の安定性の向上、データ取得効率化をさらに突き詰め、より難易度の高い赤外光利用に備える必要がある。 また現在の装置を用いてデータ取得後の解析手法を確立させることで、二次元振動分光装置の開発とそのデータ解析へとスムーズに移行できるような準備を終える必要がある。
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