研究課題/領域番号 |
21H01906
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
鐘本 勝一 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (40336756)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | スピン流 / 強磁性共鳴 |
研究実績の概要 |
本課題では、スピン流伝搬の直接計測法を開発し、その学理発展を目的としている。その手段として、スピン流が発生・伝搬を経て到達した先において、磁気共鳴信号の強度が変化することを期待する。今年度は主に、スピンゼーベック効果を介してスピン流を熱的に発生させ、それが伝搬した先で磁気共鳴信号を変化せることができるかを調べる実験に注力した。用いた素子構造は熱発生層/強磁性層1/スピン流伝搬層/強磁性層2の4層素子である。この素子構造を用いたねらいは、熱発生層での熱発生により強磁性層1に温度勾配を発生させ、それにより非磁性層からなるスピン流伝搬層にてスピンゼーベック効果を介したスピン流を発生・伝搬させ、そのスピン流が到達した強磁性層2における強磁性共鳴(FMR)信号の変化の観測を目指す。熱発生層としては有機層を用い、多くの熱を発生させるために1.4μmの比較的厚い膜を作成し、光照射による吸収熱を用いて熱発生させた。スピン流伝搬層にはスピン拡散長が長いCuを用い、ロスを減らすために10nmとした。また強磁性層1と2にはそれぞれパーマロイ(Py)とFeを用いた。異種金属を用いることで各々のFMR信号を区別することを目指した。FMR計測に先立って、強磁性層2を非磁性金属Ptに変え、熱発生スピン流が到達したことによる起電力がPt層にて観測されることを確かめた。これはスピンゼーベック効果が生じたことを実証する。一方で、上記4層素子にて強磁性層2のFMR信号変化の観測を試みたが、その変化は観測されなかった。その原因として考えられるのが、スピン流の発生量不足である。スピンゼーベック効果で観測された起電力は数十nV程度であり、かなり小さかった。この小さいスピン流発生量に対して、FMR信号の微小変化観測のために、熱発生を交流化してロックイン計測を行える系を構築できた。ただし、信号観測は実現しなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り熱発生スピン流によるFMR信号の変化は観測できなかった。しかしながら、目的とした観測のための実験系を構築することはできた。特にFMR信号の微小変化観測に向けて高感度測定系を構築できた。これは大きな進歩である。また上記には記載しなかったが、電流励起によりスピン流発生できる系の構築も行えた。以上より、本研究は目的通り進捗できていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は熱誘起スピン流の直接FMR検出を目指したが実現には至らなかった。まずその主要因は発生スピン流が小さいことだと予想されるため、励起光強度を大幅に増強させることで、より大きな熱発生源を介した熱スピン流生成系を構築し、観測を実現させる。さらに、その熱スピン流よりも大きなスピン流発生を目指して、電流を介したスピン流発生とFMR変化を組み合わせた計測系に取り組む。そこでは、非磁性層に電流を流し、スピンホール効果によりスピン流を発生させ、非磁性層に隣接させた磁性層にスピン流を注入し、その際のFMR変化の観測を目指す。ただしそのFMR変化は小さいと予想されるため、発生電流を交流化することでFMR変化自体も交流化させ、ロックインアンプによる高感度計測とする。以上に加えて、これまでも取り組んできた強磁性層1/スピン流伝搬層/強磁性層2の3層素子における二重共鳴実験にも再度取り組む。これまで計測が実現しなかったのは、強磁性層1にて発生させるスピンポンピング経由のスピン流が小さいことが主要因であると予想しているため、その対策として、強磁性層1に対する励起強度をハイパワーのマイクロ波照射により増強させる。さらには、微小FMR信号変化の観測に向けて、差動増幅を介した高感度計測系の構築に取り組み、信号計測を実現させる。
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