研究実績の概要 |
本研究はシラノールの新たな化学的性質を種々開拓するとともに、シラノールを分子構造に導入する合成方法論を追求し、その潜在的な有用性を明らかにすることを主な目的として進められている。申請者は『シリルシラノラート』が非常に有望な新規化学種であることを独自に発見しており、すでにパラジウム触媒を用いて既存の方法論より遥かに効率的、官能基選択的な触媒的トリメチルシリル化を実現している。本年度は特にこのシリルシラノラート種の化学についての研究を進めた。 パラジウム触媒を用いるシリル化について、学会で発表していた内容について論文化して公表した[ACS Catalysis, 2021, 11, 10095]。またシリルシラノラートが既存のシリルボランなどに代わる遷移金属シリル錯体の前駆体として有望であることを示すため、銅やニッケルをはじめとする他の遷移金属種との反応について調査した。その結果、ニッケル触媒を用いた条件において、パラジウム触媒を用いたものと同様にハロゲン化アリールとシリル基のカップリング反応が進行することを見出した。ニッケル触媒を用いた場合、一部の電子不足基質においてシリルシラノラートの転位反応が進行してしまい、目的の化合物が得られなかったためニッケル上のリガンドを調整することで対応し、論文として報告した[Chemical Communications, 2021, 57, 6867]。またシリルシラノラートが銅触媒とも反応してシリル銅種を生成することを見いだし、アルキンに対するヒドロシリル化反応として確立した。これについても論文化し、報告した[Chemical Science, 2022, 13, 4334]。
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