研究課題/領域番号 |
21H01955
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
堀 顕子 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (90433713)
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研究分担者 |
RICHARDS GARY 芝浦工業大学, 工学部, 准教授 (00708620)
ジェズニチカ イザベラ 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (40565769)
後藤 貴行 上智大学, 理工学部, 教授 (90215492)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 分子認識 / ガス吸着 / 金属錯体 / 分子性結晶 / 集積型金属錯体 / 結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
無極性化合物の分離法の確立に向け、昨年度に引き続き、正の四重極モーメントを有するフッ素化金属錯体や有機化合物の合成と電子特性、吸着物性を調べた。特に温度制御下で小分子の吸着物性評価、結晶相転移の検出法の確立, 多フッ素化による電子状態の理論的考察に向けて以下の研究活動を行った。 A. 種々のフッ素置換金属錯体の合成:①フッ素置換ケトナト金属錯体の調製と構造決定:十分な量の錯体合成法を確立し、確かに二酸化炭素において選択的分子認識が見られることを確かめたため、次年度出版を目指し論文執筆中である。②フッ素置換ピリジンや安息香酸誘導体を用いた金属錯体の設計・合成・構造決定:昨年度予備的な知見が得られていたビピリジン化合物とその錯体について、フッ素置換及び無置換での分子間相互作用や分光学的性質、ゲスト包接挙動を調べた。③フッ素化環状アレーン化合物の合成・構造決定:二酸化炭素及び芳香族化合物に適した材料の合成に成功した。④フッ素化イソフタル酸を用いた2次元シート型金属錯体の分子認識:フッ素化イソフタル酸を用いた種々の集積型金属錯体の合成法を確立し、ゲスト分子共存下での共結晶化やガス吸着測定を実施した。窒素ガスに比べて4倍の二酸化炭素を極めて低圧で取り込む亜鉛錯体について重点的に研究を行い、キャビティーの柔軟かつ可逆的な拡張とそれに基づく選択的な分子認識を見出した。現在、2-3成分系の混合ゲストにおける分離実験を進めている。 B. ガス及び蒸気による小分子吸着と分離:昨年度まで吸着装置の温度制御に課題があったが、装置の修理なども経て、順調にガス及び蒸気吸着の調査が可能になった。二酸化炭素に対して、海外等の先行研究と比較しても明らかに高効率な吸着挙動が見えており、また包接数が構成ホスト分子やホスト骨格の整数比になることから、期待した四重極の差を駆動力とする分子認識であることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A. 種々のフッ素置換金属錯体の合成:令和5年度は院生3名、学部生6名と研究を実施した。概要で述べたように、主要となる①フッ素置換ケトナト金属錯体、②フッ素置換ピリジンや安息香酸誘導体を用いた金属錯体、③フッ素化環状アレーン化合物、④フッ素化イソフタル酸を用いた2次元シート型金属錯体の合成法を確立するとともに、その溶液構造をNMRや質量分析、固体構造を単結晶X線構造解析、粉末X線回折、熱重量分析より明らかにした。有機化合物については必要とするフッ素化した化合物の合成が完了し、金属イオンや分離材料としてゲスト分子のスクリーニングへの展開を進めており、初年度のコロナ禍や昨年度の抗がん剤治療による実験の遅れを取り戻せたと考えている。 B. 錯体の求電子・求核性評価:合成した化合物の結晶及び共結晶の構造解析及びDFT計算により、期待していた特性変化を見出すことができた。 C. ガス及び蒸気による小分子吸着と分離:概要に述べたように、二酸化炭素に対して、海外等の先行研究と比較しても明らかに高効率な吸着挙動が見えているが、四重極の差を駆動力とする分子認識であることを証明するためには、二酸化炭素と形状が近く正反対の四重極を持つアセチレンの測定が必要である。しかしながら、本学の共同利用施設のルールにより、現状では可燃性ガスを設置、測定することができないため、学内調整を進めるとともに共同研究先との連携も模索したが、アセチレンに測定には至っていない。代替え策として、ベンゼンとヘキサフルオロベンゼンのように四重極が正反対の蒸気吸着と理論計算によって分離性能を調べた。得られた結果は本研究戦略を支持するものであり、総じて、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
すでに予定していた化合物の合成と金属錯体への展開が進んでいるので、最終年度は化合物の物性評価と再現性を十分に満たした上で学会発表と論文執筆を優先する。 1. 金属錯体の構造評価:ゲスト分子を認識する柔軟性を持つホスト結晶は、それ自体が外場(温度、溶媒、ゲスト分子)等によって多形や擬多形を生じることがわかった。単結晶X線構造解析だけではバルクの結晶相の十分な議論ができないため、今年度は粉末X線回折と熱重量分析を重点的に実施する。金属イオンの求電子、求核特性は理論計算により系統的に分析する。 2. アウトプットの設計と確立:分子包接に基づき結晶の吸収色や発光色の変化が見られる系を複数見出している。分子包接を視覚的に教えるセンサーとしての応用が期待できるため、詳細に溶液及び固体での分光学的性質を明らかにする。 3. 吸着と分離:吸着装置でアセチレン等の可燃性ガスの測定ができるように再度検討を行う。測定できない場合も、各種蒸気等を用いて吸着性能を明らかにし、吸着現象に差がみられたものから混合系への分離へと応用する。少なくとも、次年度中にベンゼンと芳香族フッ素系、ベンゼンと環状アルカン、ベンゼンとメチル置換ベンゼン誘導体について、無極性分子間での分子認識特性とその優先度を決定する。 4. その他:フッ素置換によって生じる「πホール」を窒素を含むヘテロ環状分子に適用し、研究目的にある高効率ゲスト分離材料をより一般化する。
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