研究課題/領域番号 |
21H01964
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
石坂 昌司 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (80311520)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 界面・微粒子分析 / レーザー分光 / 光ピンセット / エアロゾル |
研究実績の概要 |
大気中に放出されたエアロゾルは、オゾンやヒドロキシルラジカルとの不均一酸化反応や、紫外線による光化学反応のため、その化学組成が変化する。このエアロゾルの変質は「エイジング」と呼ばれる。エアロゾルの物理的・化学的な性質は常に変化しているため、微粒子集合系の平均値解析では、エアロゾルの気候変動への影響を見積もる際に、大きな不確かさが生じてしまう。本研究では、単一エアロゾル粒子を空気中の一点に非接触で浮遊させ、エアロゾル粒子ごとに“化学組成”と“吸湿性”を同時に計測する。光学顕微鏡下でエアロゾルの「エイジング」と「雲粒の発生」を再現し、大気中で起こるエアロゾルの複雑な化学反応過程を理解することを目的とする。 R5(2023)年度も引き続き、針葉樹から発せられるアルファーピネンの二次有機エアロゾル生成に関する研究を実施した。昨年度(R4年度)実施した予備実験では、チャンバー内にアルファーピネンを滴下して密閉した後、ペン型水銀ランプからの紫外光をチャンバー内に照射して二次有機エアロゾルを発生させた。しかしながら、紫外光照射による光化学反応では、二次有機エアロゾルの発生量が少なく、レーザー捕捉の成功率が極めて低いために、継続して実験を行うことが困難であった。そこで、ペン型水銀ランプに代わり、オゾン発生器を用いた実験を試みた。オゾン発生器を用いて発生させたオゾンをアルファーピネン蒸気で満たした真鍮製のチャンバー内に導入するように、実験装置の改良を行った。オゾン発生器を用いて定常的にオゾンを反応チャンバー内に供給することで、二次有機エアロゾルの発生量が増加した。また、発生した二次有機エアロゾルを気相中においてレーザー捕捉することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度のR3(2021)年度は、コロナ禍と世界的な半導体の供給不足により、光ピンセット用の光源であるCWレーザーの納入が予定より大幅に遅れたため、実験開始が遅れたが、R4(2022)年度は、光ピンセット実験装置の構築が順調に進み、これまで困難であった固体エアロゾルのレーザー捕捉とその表面電荷計測が可能となった。また、この光ピンセット実験装置を用いて、大気中で進行するエアロゾルのオゾン酸化反応の実験を開始することができた。R5(2023)年度は、ペン型水銀ランプを用いた実験から、オゾン発生器を用いた二次有機エアロゾル生成の実験に移行し、レーザー捕捉の成功率が格段に向上したのみならず、エアロゾルの化学反応(エイジング)を誘起することが可能となったため、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ピネン由来の二次有機エアロゾルのラマンスペクトルから、二次有機エアロゾルそのものの化学組成を明らかにすることを目指す。ピネンのオゾン酸化反応は、相対湿度に大きく依存することが知られている。そこで、相対湿度とオゾン濃度を任意に制御可能とするための顕微鏡用チャンバーの改良を行う。ラマンスペクトルの相対湿度依存性に関する実験を実施し、ラマンスペクトルのピークを帰属することを計画している。また、オゾンによる黒色炭素粒子の不均一酸化反応を誘起し、黒色炭素粒子(疎水性)の不均一酸化反応がどこまで進行すれば、雲凝結核として振舞うのかを実験データとして示す。具体的には、グラファイト骨格由来のラマンピーク強度に対するC=O伸縮振動のピーク強度比を酸化反応の進行度の指標として用いる。相対湿度を制御し、黒色炭素粒子一粒を気相中に浮遊させたまま吸湿性(水で濡れる相対湿度)を計測する。また、エアロゾルのエイジングに伴う物理的・化学的な性質の変化を計測するために、単一エアロゾルの屈折率・粘度・質量を計測可能な新規計測手法の開発も行う予定である。これらの本研究課題で得られた研究成果は、論文および関連する学会にて発表する予定である。
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