研究課題/領域番号 |
21H01977
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
小玉 晋太朗 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30612189)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 光酸発生剤 / 可視光 / 遷移金属 / 窒素系配位子 / 錯形成 / ルテニウム錯体 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、配位子型光酸発生剤と金属との錯形成による発色挙動と酸発生機構を解明することにより、光酸発生剤の感光波長を可視領域にまで迅速かつ自在に長波長化するための新手法を実現することである。 本年度では、配位子型光酸発生剤である 4,5-ジアザフルオレン-9-オン O-(p-トルエンスルホニル)オキシム (L) とルテニウムジイミン錯体との反応により、ジイミン配位子を補助配位子に有する新規カチオン性ルテニウム錯体を合成した。得られた錯体の UV-vis スペクトルを測定したところ、いずれの錯体もアセトニトリル中において 435 nm 付近に極大吸収 (ε >13000 M-1 cm-1) を示した。続いて、酸と反応して退色する色素を用いて光酸発生能の評価実験を実施した。その結果、キセノンランプによる可視光 (>400 nm) 照射下において、今回合成したカチオン性ルテニウム錯体からの酸発生を確認した。一方、配位子 L そのものは可視光をほとんど吸収しないため、L に対して可視光 (>400 nm) を照射しても、酸発生は認められなかった。なお、光酸発生剤の感光波長を長波長化する方法の一つに、光酸発生剤と光増感剤を併用する方法が知られている。そこで、光増感剤としてトリスビピリジンルテニウム錯体を用いて、これと L を共存させて可視光 (>400 nm) を照射したところ、上述のカチオン性ルテニウム錯体の場合と比較して、わずかに酸が発生するにとどまった。以上の結果より、ルテニウムジイミン錯体との錯形成が L の感光波長の長波長化に有効であることが明らかとなった。また、カチオン性ルテニウム錯体のカウンターアニオンの違いによって光酸発生能が変化することを予備的に確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、4,5-ジアザフルオレン-9-オン O-(p-トルエンスルホニル)オキシム (L) とジイミン配位子を併せ持つ新規カチオン性ルテニウム錯体を合成し、その可視光照射下における酸発生能を明らかにすることに成功した。既存の光酸発生剤の中にも可視光を吸収するものは存在するが、その合成にはπ共役系が拡張されたクロモフォアの多段階合成が必要となる場合が多い。また、本錯体のように可視領域におけるモル吸光係数 (ε) の値が 10000 を超える光酸発生剤は数少ない。したがって、配位子型光酸発生剤 L のクロモフォアにルテニウムジイミン錯体を導入する本手法は、可視光対応型光酸発生剤の迅速合成に有効であると考える。 以上、配位子型光酸発生剤の感光波長の長波長化に有効な金属錯体に関する知見を実験的に得ることに成功し、本年度の研究の進捗はおおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度 (令和 3 年度) では、ルテニウムジイミン錯体が 4,5-ジアザフルオレン-9-オン O-(p-トルエンスルホニル)オキシム (L) の感光波長の長波長化に有効であることを明らかにした。次年度 (令和 4 年度) も、計画通り引き続き、L との錯形成に用いる金属錯体を検討する。なお、本年度の研究において、カチオン性ルテニウム錯体のカウンターアニオンの違いによって光酸発生能が変化することが判明しており、種々のカウンターアニオンを有するカチオン性ルテニウム錯体を新たに合成し、その光酸発生能を比較検討する予定である。さらに、ルテニウム以外にイリジウムなどの後周期遷移金属を選択することにより、金属の種類が光酸発生錯体の感光波長に与える影響を明らかにしたい。また、新規な配位子型光酸発生剤を合成するとともに、その錯形成反応を実施する予定としている。以上の合成研究を進めることにより、令和 5 年度以降に実施予定の光酸発生機構の解明研究や酸触媒反応への応用研究に向けた各種光酸発生金属錯体の基礎データを収集する。
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