研究課題/領域番号 |
21H01991
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山本 拓矢 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (30525986)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 環状高分子 |
研究実績の概要 |
様々な重合度の環状poly(3-hexylthiophene)(P3HT)の合成をトポロジー効果および分子量依存性の調査を目的として行った。1H NMRおよびMALDI-TOF MS測定により合成確認を行い、高純度な環状P3HTの合成・単離を達成した。次に、SECにより重合度の異なる直鎖状P3HTおよび環状P3HTを分析したところ得られたポリマーの分子量分散度は非常に小さく、重合度は14、21、26、29、43量体と見積もられ、分子量依存性の評価に充分な重合制御を確認した。加えて、分子量が大きい程、環化による分子量のシフトが大きくなる傾向が示された。これらを用いたcyclic voltammetry測定より溶液状態においても環状P3HTは分子間反応を起こさず、電気化学的に安定であることが示唆された。また、環状P3HTは直鎖状P3HTとは対照的に、重合度の増大に伴うHOMOの低下といった環構造特有の性質を示すことを見出した。さらに、環状P3HTでは14から30量体のような比較的大きな重合度においてもジカチオン性を発現することが化学酸化を用いた各種測定から示唆され、ポーラロン間の相互作用の分子量依存性について知見が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
はじめに、当初の目的であった種々の分子量の環状P3HTの合成を問題なく達成した。すなわち、金属交換反応により開始剤を調製し、モノマーとの比を変化させたGRIM重合を行うことで14から43量体の構造欠陥のない直鎖状P3HTを合成した。分子量分散度はいずれも1.2以下であり、分子量依存性の評価に充分な重合制御が行えた。次に、環化を行ったところ、分子量に応じてピークトップ分子量のシフトが大きくなる傾向があった。例えば、直鎖状P3HTと環状P3HTのピークトップ分子量の比は、14量体では0.92、43量体では0.71であり、分子量が大きくなるにつれて環化による流体力学的な体積減少が顕著になるといったトポロジー効果を見出した。さらに、複数の樹脂を用いた精製を行い、高純度の構造欠陥のない環状P3HTを得た。 このようにして得られた様々な重合度を有するP3HTを用いて電気化学的な比較を行ったところ、環状P3HTでは全ての重合度において同様の形状を有する一定のvoltammogramが得られたが、直鎖状P3HTでは系の不可逆性に起因して安定した形状のvoltammogramを示さなかった。また、HOMO準位を各ポリマーの第一酸化の立ち上がり電位から計算したところ、環状P3HTでは、14量体で-4.86eV、43量体で-4.92eVと、重合度が大きくなるにつれてHOMO準位が低下する傾向にあることが明らかになった。これに対し、直鎖状P3HTでは21量体で-4.94eV、43量体で-4.87eVであり、重合度に応じてHOMO準位が上昇するといった一般的な導電性高分子の性質を示した。 以上の結果の学会発表を行い、投稿論文の準備している。そのため、本研究は概ね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は環状poly(ethylene glycol)(PEG)を中心とした研究を遂行する。現在、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の薬物担体に代表される様々なナノ粒子系医薬品の研究が行われているが、これらはPEGylationと呼ばれる粒子表面を生体適合性のPEGにより修飾することを基盤としている。その中で、金属ナノ粒子のPEGylationについては、thiolとの化学反応に基づくものにほぼ限定されている。これに対して、我々は構造欠陥のない環状PEGの物理吸着により修飾した金ナノ粒子(AuNPs)が優れた分散安定性を発現すことを報告した。 研究計画として、まず、PEG分子のコンフォメーションに由来する広がりが分散安定性の決定的要因と考え、PEGの分子量やナノ粒子表面上の密度の影響を精査する。この時、特に環とナノ粒子のサイズの関係について詳細に検討する。さらに、8の字型などの多環構造の影響を検討する。8の字型PEGの合成は達成済みである。また、AuNPsの表面にはその調製試薬に由来するアニオンが付着しており、それが環状PEGによる分散安定化の原理追究を複雑化している。そこで、清浄な金基板に対する環状PEGの吸着を測定することで、高分子トポロジーに由来する純粋な吸着能を評価する。さらに、X線や中性子散乱・反射率測定を用いた構造解析により表面状態を解明する。この測定によって、AuNPs表面のPEG層の厚さや密度、および水和状態を確認する。また、計算化学を用いて、環状PEGがAuNPs表面に強く吸着する原理をシミュレーションにより解析し、理論面からこの現象を追究する。
|