研究課題/領域番号 |
21H02005
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
遊佐 真一 兵庫県立大学, 工学研究科, 准教授 (00301432)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 静電相互作用 / ポリアンホライト / 感温性 / 接着 / ゲル / 双性イオン / 精密高分子合成 / 高分子電解質 |
研究実績の概要 |
高温で溶媒に溶解して低温で不溶となる現象は、上限臨界溶液温度(UCST)と呼ばれる。特に、同一側鎖にカチオンとアニオンを含む双性イオン構造のスルホベタイン構造の直鎖状高分子は、UCSTを示す高分子として研究されている。低温ではカチオンとアニオンの静電相互作用が強く働くため、水に不溶となる。一方昇温すると分子運動が激しくなり、静電相互作用が遮蔽されるため、水に可溶となることが知られている。本研究の最終目的は、UCSTを示すゲルを利用して、接着や自己修復に応用することである。今年度は、UCSTを示すヒドロゲルの合成を試みた。特に、カチオンとアニオン性側鎖をランダムにポリマー側鎖に導入したポリアンホライトに架橋剤を導入することでゲル化を試みた。 これまでの研究で既に、カチオン性の4級アンモニウム塩を含むスチレン型モノマーのVBTACと、スルホネートイオンを含むスチレン型モノマーのNaSSによるランダム共重合体は、水中でUCST挙動を示すことを確認している。今回は、架橋剤となる2つのメタクリレート基を含む低分子量ポリエチレングリコール(PEG)存在下で、VBTACとNaSSの共重合を行うことでヒドロゲルを作製した。得られたヒドロゲルは、純水中で温度を変化しても、常に白濁した状態で温度応答挙動を示さなかったが、食塩やチオ硫酸ナトリウムなどを溶解した水中で、低温で白濁して、昇温により透明化する現象が観測された。これは、純水中ではカチオン性のVBTACと、アニオン性のNaSSの静電相互作用が強く働くため、温度応答挙動を観測できなかったが、塩を添加してVBTACとNaSSの静電相互作用を遮蔽することで、温度変化による静電相互作用の強さが変化したと考えられる。さらに、温度応答の実験条件を最適化することにより、より明確にポリアンホライトヒドロゲルは、UCST挙動を示すと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カチオン性のVBTACと、アニオン性のNaSS、架橋剤による共重合を行うことで、カチオン性基とアニオン性基を側鎖結合したポリアンホライトによるヒドロゲルを合成できた。このヒドロゲルは、その構造中にカチオンとアニオンの両方を含む。重合の仕込みの段階で、これらのモノマーのモル比を調節して重合を行うことで、カチオンまたはアニオンが多いヒドロゲルや、ゲル中の架橋剤の量を制御することができた。また、純水中ではヒドロゲルの明確な温度応答挙動を観測できなかったが、水中に塩を添加することで、低温でゲルは白濁して、高温で透明になるUCST挙動を観測することができた。今後、重合条件の最適化や、温度応答挙動を調べる際の条件の最適化により、より明確にUCSTを示すヒドロゲルを作製できると期待される。今後行う予定である、ポリアンホライトヒドロゲルによる自己修復挙動を調べるための準備は十分に達成できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究により、カチオン性のVBTACとアニオン性NaSSによるヒドロゲルの合成に成功した。さらに塩を添加した水中で、このポリアンホライトヒドロゲルはUCST挙動を示すことを確認できた。今後、カチオンとアニオンの組成および、架橋密度などの最適化を行うことで、より明確にUCSTを示すヒドロゲルの作製を行う。特に架橋剤の添加量は、ゲルの膨潤挙動に大きな影響を及ぼすと考えられる。つまり架橋密度が高くなると、ゲルが固くなり、温度変化による膨潤・収縮挙動が起こりにくくなる可能性がある。架橋密度を低くすると、温度変化でより大きく膨潤・収縮する可能性があるが、架橋密度が低すぎるとゲルが脆くなり水に溶解してしまう。その点を考慮しながら、架橋密度を変更したヒドロゲルを作製することで、UCST挙動を示すのに最適なヒドロゲルの作製を行う。さらに、作製したヒドロゲルをカミソリで切断して、温度変化により再び切断面が結合する自己修復性を示すか調べる。
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