研究課題/領域番号 |
21H02017
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
畠山 歓 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (90822461)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 機能性高分子 / マテリアルズ・インフォマティクス |
研究実績の概要 |
実験化学の立場から実践的なマテリアルズ・インフォマティクスの学理を確立することを最終目標に、本研究ではその一環として、有機機能性材料の合成と計測に焦点を当てた研究を推進している。21年度は、a)深層生成モデルによる物性予測とb)量子アニーリングによる材料構造の探索に取り組み、少ない実験データから効率的に物性や理想構造を予測するための基礎的な知見を集積した。 a)深層生成モデルによる物性予測: 明示的な教師データを必要としない材料科学の機械学習モデルの構築の初めの手掛かりとして、深層生成モデルによる有機材料の物性予測に取り組んだ。深層生成モデルとはディープラーニングの手法により入力されたデータ群の特徴群を自動学習・再現する枠組みの一種である。これを種々の材料データベースの情報認識に活用することで、多彩な構造―物性の相関情報から重要な知見を抽出し、一種の転移学習のような形で材料物性の予測精度を高められる場合があることを明らかにした。 b)量子アニーリングによる構造探索: 従来法よりも高精度かつ高速に所望性能を満たす材料構造を抽出可能な新しい方法論として、重ね合わせの原理に基づき求解可能な量子アニーリング技術の利用を検討した。教師有り・無し機械学習の双方を利用した探索ポテンシャルを構築することで、実際の実験検証に耐えうる高分子材料の構造を直接的に提示する手段を例示した。 一連の成果は査読付き学術誌や国内外の学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画通り、深層生成モデルと量子アニーリング技術を活用した有機材料の設計に取り組み、一連の手法をマテリアルズ・インフォマティクスに展開した際の特徴を明確化できた。一部、計画時の予想を超える成果も得られた。例えば、量子アニーリングは探索ポテンシャルから最小のエネルギーを示す解を示す技術として知られるが、実際は熱揺らぎに伴う理論値とのズレが知られている。熱揺らぎは厳密に最小解を探す上では嫌忌されるが、本課題のような材料探索という用途においては、提示される構造の多様性に繋がり、むしろ実験者にとって好ましいことを見いだした。 以上、今年度に集積した成果は想定した進捗を上回るものであり、継続して成果を集積する上での足がかりとしても活用出来る見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果に基づき、22年度は一部計画を前倒しで研究を推進し、有機材料に関わるマテリアルズ・インフォマティクスの学理構築のための知見を引き続き集積する。 具体的には、初年度に着眼した分子構造以外の材料情報(例えば製法や計測データ)を機械学習・量子アニーリングの枠組みで扱うための基盤構築に注力する。具体的には、情報間の関係性を点と線で結ぶグラフ構造に基づく実験データの記法の解明に取り組み、実験化学・データ科学の双方の視点において、正確かつ可読な、利便性高いデータ書式やアルゴリズムの構築を試みる。電子機能材料の合成など実際の実験活動での運用を通し、マテリアルズ・インフォマティクスのボトルネックである実験データベースの構築作業をシームレスに実現するための理論的な枠組みを整理する。
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