研究課題/領域番号 |
21H02045
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
森 正悟 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (10419418)
|
研究分担者 |
西井 良典 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (40332259)
木村 睦 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (60273075)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 分子間電子移動速度 / 還元速度 / 酸化状態色素 / 吸収スペクトル |
研究実績の概要 |
色素増感太陽電池に用いられる色素には半導体に吸着させるためにカルボン酸などの部位(吸着基)を付けている。また吸着基まで電子軌道が広がっている(共役架橋)色素と、いない色素(非共役架橋)がある。非共役架橋色素は半導体から色素への電荷再結合が遅いことが期待される。2021年度の実験結果では非共役架橋色素への再結合が遅くなる結果もあったが、むしろ速くなるケースもあり、吸着した隣接色素も色素のまわりの溶媒分子と同じように振る舞い、再配向エネルギーに影響していると考察した。2022年度にさらに検討したところ、電解液中のカチオンが色素の近くに配置するときに、再配向エネルギーと、非共役色素に対する電子カップリングにも影響を与えていることが示唆された。また新たにシアノ基を吸着基付近に持つ色素で再結合速度を測定したところ、シアノ基を持たない色素よりも大幅に再結合が遅くなった。これもシアノ基が酸化物表面につくる電場の影響であることが示唆された。 2021年度に操作が容易な半導体レーザーを導入し、2022年度にはこれを用いてノイズの小さい過渡吸収の測定系を組み立てた。 酸化状態色素の吸収スペクトルを測定する装置を改良しながら、異なる構造の色素を様々な電解液や吸着条件で測定したところ、酸化状態色素のスペクトルは溶媒や電解質に敏感に影響を受けることがわかった。色素の吸着量に対しても影響を受けることから、スペクトルの変化から色素の周りの溶媒分子の数、または溶媒に触れている色素の部位や面積などを評価する方法について検討を始めた。 銅錯体を色素増感太陽電池に用いた場合、その開放電圧は期待される値より低くなるが、その理由は分かっていなかった。今回その原因を様々な仮説を立てて調べたところ、銅錯体と電解液に添加した分子との相互作用が濃度によって異なることが原因であることがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度では過渡吸収測定装置と酸化状態色素の吸収スペクトル測定装置の改良が進み、スムーズに測定ができるようになった。また色素の周りの溶媒の状態が評価できる可能性が見えてきた。半導体と色素間の電子移動速度の測定から、電解質によるカップリングへの影響の理解が進み、今後その知見を色素とレドックス対の間の電子移動速度の分析に用いる。合成に関しては、電子カップリングと再配向エネルギーの影響を詳細に理解するために、新たに金属錯体と有機色素の合成を進めた。銅錯体はほぼ最終段階まで進んだが、有機色素は合成ルートがなかなか見つからず、分子の構造も最初に設計したものとは少し変えて、合成を進めている。しかし当初の計画と異なり、どちらもまだ合成はできていない。 分子の電解液への露出面積が電解液中のコバルト錯体との電子カップリングに与える影響はオーストラリアの共同研究グループでも進めており、そこで十種類以上の色素の還元速度の測定が行われた。その結果に対して、本研究で提案した仮説を当てはめたところ、仮説はおおむね正しいことがわかり、現在定量的に説明できるモデルを考えているところである。 以上のことから計画に沿って進んでいるところ、計画以上の結果もあるが、計画より遅れている内容もあるため、やや遅れていると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度には、現在進めている金属錯体と有機色素の合成を完成させ、電子移動速度を測定し、電子カップリングに対してはトンネル効果の視点から分析し、再配向エネルギーに対しては近接分子による内部再配向エネルギーへの影響の検討を行う。色素に接する溶媒分子の影響を吸収スペクトルから評価できるようにし、その結果と色素の還元速度の関係を調べる。量子化学計算で分子軌道の大きさと電子の確率密度を計算し、それらと測定された色素の還元速度の関係を式に表し、マーカスの式に対する補正項を導く。銅錯体を用いた色素増感太陽電池に対して変換効率を下げている要因が2つ特定されたため、今年度はそれを解決する分子を設計し、合成を始める。
|