本研究の目的は、i) リチウムイオン電池における層状シリコン負極の電極反応メカニズムを明らかにし、ii) 高性能シリコン負極材を開発する、ことである。本研究によって、従来の合金化反応(LixSiの生成)と電極反応の解明と、実用化に向けたシリコン負極材の開発が期待できる。 令和5年度の研究実績の概要は以下の通りである。 研究目的の達成に当たっては、膜厚を制御した層状シリコン(規格化した層状シリコン)の作製の成否が鍵となる。課題申請者らは、昨年度までに、従来のイオン交換の手法ではなく、CaSi2溶液中に直接炭酸ガス導することで、層状シリコン作製の手法を開発した。 令和5年度、本作製では、溶液濃度を変えることで、シリコン層厚さを数原子層単位で制御することが可能であることがわかった。さらに、層状シリコンとグラフェンの積層コンポジット電極作製においても独自の手法を開発した。すなわち、水溶液のpHを調整することによって、層状シリコンとグラフェンオキサイド(GO)のヘテロ凝集コロイドを合成することで、上記積層コンポジットの作製に成功した。本積層コンポジットを負極に用いたリチウムイオン電池の特性は高い耐久性を示した。例えば、電流密度0.3 A/gで450サイクル後でも約800 mAh/gの放電容量を保持していた。研究では、充放電反応前後での積層コンポジット負極の化学的、構造的変化を調べた。TEM及びSEM観察では、充放電前後のコンポジットの微細構造において顕著な違いは見られなかった。これは、充放電反応によるシリコン層の体積膨張が抑制されていることを示唆していた。XRD、Ramanスペクトル、及びXPS測定では、LixSiの生成といった反応は確認できなかった。
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