研究課題/領域番号 |
21H02066
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 浩之 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (30274434)
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研究分担者 |
岡田 智 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (70785229)
三浦 一輝 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (70825330)
盛田 大輝 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (80881929)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 中性子捕捉療法 / ホウ素 / アルブミン / がん治療 |
研究実績の概要 |
低侵襲がん治療法として注目されているホウ素中性子捕捉療法(BNCT)では、現在ホウ素薬剤 BPAを用いた頭頸部癌への治療が世界に先駆け我が国で承認され、保険治療が行われている。しかし、BPAが集積しないがんも多いことから適応外となる症例も少なくない。本研究では、BPA非感受性がん患者に対する BNCT適応疾患拡大の実現を目的とした次世代BNCTの構築を目的とする。 具体的には、内在性血中アルブミンをホウ素キャリアとした次世代BNCT薬剤の腫瘍デリバリーシステムを構築し、根治を目指した低侵襲型ホウ素デリバリーがん治療システムを確立する。ホウ素薬剤にアルブミン結合リガンドを組み込むことで、注射により患者の血液に含まれる内在性アルブミンに血中で結合させる戦略を考案した。内在性アルブミンをホウ素キャリアに利用することで、腫瘍に持続的に集積するホウ素デリバリーシステムを開発する。 本年度は、令和3年度に見出したヒト血清アルブミン(HSA)に対して高い親和性を有するアルブミンリガントとして、4-ヨードフェニルブタンアミドに着目し、クロロドデカボレートを結合させたホウ素薬剤(BC-IP)を開発した。BC-IPは水溶性で細胞毒性が低いことがわかった。BC-IPのIC50値はU87MG細胞で475μM、HeLa細胞で738μM、A549細胞で1000μM以上であった。HSAに対するBC-IPの解離定数(Kd)値は148±8μMを示した。注射3時間後にU87MG腫瘍マウスモデルで有意な腫瘍集積が観察された。腫瘍中のホウ素濃度は3時間後に最大11μgB/gに達し、12時間後と24時間後にはそれぞれ2.4μgB/gと2.3μgB/gまで徐々に減少した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、アルブミン結合リガンドを選択・決定し、ホウ素源であるcloso-dodecaborateと結合させることに成功した。さらに、その解離定数を測定した結果、本研究の目的である患者の血液に含まれる内在性アルブミンに血中で結合させる戦略が、実行可能であるという知見が得られたのは大きな成果である。本研究の目的である患者の内在性アルブミンをホウ素キャリアに利用した、腫瘍に持続的に集積するホウ素デリバリーシステムの開発に向けて順調に進んでいると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度に開発に成功した、ヒト血清アルブミン(HSA)に対して高い親和性を有するホウ素薬剤BC-IPにおいて、動物実験の結果、体内動態の向上が課題として浮かび上がった。今後は、プラットホーム分子にアルブミンリガンドを導入したのち、さまざまながん親和性リガンド分子の導入を検討する。特に、多くのがん細胞で高発現している葉酸受容体に着目し、この受容体に親和性を持つリガンドを導入することで、がん細胞への集積性の向上を目指す。臨床では、悪性脳腫瘍の患者の2/3に葉酸受容体が高発現しており、その患者は葉酸受容体がネガティブな患者より予後が悪いことが統計的にわかっている。プラットホーム分子にアルブミンリガンド、葉酸受容体リガンドを導入したのち、腫瘍移植マウスを用いて、体内動態ならびに腫瘍集積性の時間変化をICP-OESを用いたホウ素濃度測定により明らかにするとともに、京都大学複合原子力科学研究所の共同利用により、熱中性子照射を行い、BNCT抗腫瘍効果を検証する。
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