研究課題/領域番号 |
21H02085
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
松倉 千昭 筑波大学, 生命環境系, 教授 (60361309)
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研究分担者 |
尹 永根 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線生物応用研究部, 主幹研究員 (50609708)
古川 純 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (40451687)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 茎 / 同化産物転流 / AGPase / PETIS / トレーサー解析 / 果柄 / トマト |
研究実績の概要 |
作物にとって茎部は植物体を支える構造器官であるだけでなく、ソース(葉)とシンク(種子、果実など)をつなぐ長距離輸送経路としての役割を持つ。同化産物輸送の効率化は作物の収量性を改良する上で重要と考えられるが、茎部における同化産物輸送の制御メカニズムは不明である。本研究はトマトのデンプン生合成能欠損系統を用いて、同化産物の長距離輸送や分配における茎、果柄の機能を解明することを目的としている。2021年度は1)茎部における同化産物の輸送、2)茎部における同化産物の代謝動態 について直接モニタリングする実験系の構築に向けて各種条件検討を行った。具体的には、1)では、トマト植物体をポジトロンイメージング (PETIS) で解析し、解析に適した植物の発達ステージを検討すると共に、同化産物の移動動態を評価した。また、2)では14C 標識CO2をソース葉に施用し、14C標識同化産物の茎組織における移動位置の同定を行った。その結果、第1もしくは第2果房と各果房の上位第2葉を用いた解析において、1)11C標識同化産物はソース葉へのCO2施用から最短で70~90分後に果房に到達すること、2)到達時間は野生型よりもデンプン欠損系統の方が早いこと、3)果房基部において何らかの同化産物分配調節が行われている可能性が高いこと、等の知見が得られた。これらの結果はRNA-seq解析の供試部位、サンプリングのタイミングを決定する上で、重要な知見を提供した。なお、当初2021年度後半にRNA-seq解析に着手する予定であったが、上記条件検討の結果、当初想定していたサンプリング対象組織を変更したため、経費の一部を繰越した上で当該解析を2022年度に実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究はトマトのデンプン生合成能欠損(AGPase発現抑制)形質転換系統および非形質転換系統(野生型)を用いて、同化産物の長距離輸送や分配における茎、果柄の機能を解明することを目的として実施した。2021年度は1)茎部における同化産物の輸送、2)茎部における同化産物の代謝動態 について直接モニタリングする実験系の構築に向けて各種条件検討を行った。具体的には、1)では、トマト植物体をポジトロンイメージング (PETIS) に供試し、解析に適した植物の発達ステージを検討すると共に、同化産物の移動動態・速度を評価した。また、2)では14C 標識CO2をソース葉に施用し、14C標識同化産物の茎組織における移動位置の同定を行った。その結果、供試果房の上位第2葉に11C標識CO2を施用した場合、標的果房(第1もしくは第2果房)基部への11C標識同化産物の到達はCO2施用から最短で70~90分後であること、2)到達時間は野生型よりもデンプン欠損系統の方が早いこと、3)野生型では同化産物が主に花房に分配されるのに対し、デンプン合成能欠損(シンク能低下)系統では、果房分岐を素通りして基部に流れる傾向が強いことが明らかとなった。この結果は、果房基部において何らかの同化産物分配調節が行われている可能性が高いことを示している。また、2)の解析により、14C標識同化産物は標的果房付近の主茎では、果房の付け根側に分布していることが明らかとなった。これらの結果は、主茎、果柄におけるRNA-seq解析の供試部位、サンプリングのタイミングを決定する上で、重要な知見となると考えられる。なお、当初、RNA-seq解析は2021年度後半にサンプリングを行う予定であったが、上述の解析の結果、サンプリング対象組織を変更したため、経費の一部を繰越した上で2022年度に実施した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は2021年度に検討した各種解析条件の検討結果に基づき、PETISの生物学的反復を6以上(デンプン生合成能欠損系統、野生型系統各3個体以上)実施し、主茎における転流動態の把握を行うと共に、各反復より、果房基部および果柄をRNA-seq解析用としてサンプリングする。また、これらサンプルを供試し、RNA-seq解析を行う(委託解析)。また、同化産物分配の量的データを摂るため、13C標識CO2を用いたトレーサー解析実験系の構築を進める。なお、14C標識CO2を用いた同化産物の茎部における代謝動態解析については、当初、本学アイソトープ環境動態研究センターが保有するLC-MSを使用する計画であったが、2022年3月16日に福島県沖で発生した地震により、同機器が故障し修理の目処が立たないことから、解析手法の変更を余儀なくされており、2022年度に代替法を検討する予定である。
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