研究実績の概要 |
味覚は空腹や満腹など生理状態の変化に伴って調節される。また、肥満や糖尿病などの代謝疾患や心理的ストレスにより味の感じ方が変化することは経験的に知られている。これら多様な原因で生じる味覚の変化はしばしば食生活の悪化につながり、さらなる体調不良を引き起こすきっかけになると考えられているが、そのメカニズムは、ほとんど分かっていない。そこで、本研究ではマウスをモデルに我々が最近見出した空腹に伴い食物を美味しく感じさせる効果を持つ視床下部のアグーチ関連ペプチド産生神経(AgRP神経)を起点とした神経ネットワーク(Fu et al., Nat. Commun., 10, 4560, 2019)に注目し、肉体・精神的疾患により味の感じ方を調節する神経メカニズムを特定することを目的とする。2022年度は心理的ストレスと糖代謝異常の2つのトピックに焦点を当てて研究を実施した。 前者についてはヒトの精神的ストレスのモデルとして知られる社会的敗北モデルを用いてマウスに心理的ストレスを与えた後にリックテストを実施し、味覚を評価した。その結果、苦味など忌避される味の感受性には大きな変化が見られなかったのに対し、甘味に対する嗜好性は高まることが明らかになった。糖代謝異常についてはグルコースアナログであり解糖系の働きを阻害し、糖欠乏状態を引き起こす2-Deoxy-Glucose (2-DG)を用いた検証を行った。2-DGをマウス腹腔内に投与すると摂食の促進が見られた。また、2-DG投与後に活性化している神経を神経活動マーカーc-fosを抗体染色することで探索したところ、これまでにわかっていたAgRP神経に加えて脳幹の複数の神経核が強く活性化することがわかった。
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