研究課題/領域番号 |
21H02148
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
中島 健一朗 生理学研究所, 生体機能調節研究領域, 教授(兼任) (70554492)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 味覚 / 代謝疾患 / 精神的ストレス |
研究実績の概要 |
味覚は常に一定ではなく、空腹や満腹など個体の生理状態の変化に伴って調節される。また、肥満や糖尿病などの代謝疾患や心理的ストレスにより味の感じ方が変化することは経験的に知られている。これら多様な原因で生じる味覚の変化は食生活の悪化につながり、さらなる体調不良を引き起こすきっかけになると考えられるが、そのメカニズムは、ほとんど分かっていない。そこで、本研究では、肉体・精神的疾患により味の感じ方を調節する神経メカニズムを特定することを目的とする。2023年度は2022年度に引き続き、心理的ストレスと糖代謝異常の2つのトピックに焦点を当てて研究を実施した。 前者については昨年までに実施した研究により社会的敗北モデルを用いてマウスに心理的ストレスを与えると甘味嗜好性が高まることから、その原因となる神経を探索した。その結果、視床下部室傍核のコルチコトロピン放出ホルモン産生神経(CRH神経)が活性化することで甘味嗜好性が高まることを明らかにした。後者についてはグルコースアナログであり解糖系の働きを阻害し、糖欠乏状態を引き起こす2-Deoxy-Glucose (2-DG)を用いた検証を行った。こちらの場合も視床下部室傍核の神経が活性化すると、糖質食の摂取が高まることが明らかになった。以上より、精神的なストレスや糖欠乏状態などにより視床下部室傍核の神経が活性化するときには、味覚感受性や食の好みが変化する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々のグループはこれまでに、脳基底の視床下部弓状核に局在するアグーチ関連ペプチド産生神経(AgRP神経)を起点とした神経ネットワークが空腹時に活動することで甘味や苦味の嗜好性が変化することを明らかにした(Fu et al. Nat. Commun. 2019) 。2023年度は空腹や満腹などの生理的な変化だけではなく、精神的なストレスで甘味嗜好性が高まる原因について検証を行った。その結果、視床下部室傍核のCRH神経の活動を化学遺伝学的手法により抑制すると、ストレスで生じる甘味嗜好性の上昇が抑制されることを明らかにした。また、代謝疾患のモデルとして、2-DG投与による糖欠乏時の検証を行ったところ、やはり視床下部室傍核の神経の活動が高まることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
心理的ストレスにより味覚が変化する現象の原因として視床下部室傍核のCRH神経が関与することから、今後は、この神経がさらにどの神経の活動を制御することで味覚を変化させるかを検証する。予備実験より、精神的なストレスを負荷することで活性化する脳部位を複数確認しており、これらの神経がCRH神経の下流にあるかどうかについて光遺伝学的解析により検証する予定である。 一方、代謝疾患と味覚の関係を調べる研究については2-DG投与マウスでの味覚評価実験を実施し、甘味嗜好性が変化するかどうかを検証する。もし、甘味嗜好性が高まった場合には視床下部室傍核の神経活動を抑制することでこの変化を元に戻せるかを明らかにする予定である。
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