研究課題/領域番号 |
21H02194
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
入枝 泰樹 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (00749244)
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研究分担者 |
高野 義孝 京都大学, 農学研究科, 教授 (80293918)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 植物-微生物間相互作用 |
研究実績の概要 |
不適応型の炭疽病菌およびイネいもち病菌の付着器を介した植物侵入に対する免疫応答に、植物の表皮葉緑体が関与することを証明した論文をNature Communications誌に掲載した。光合成にほとんど寄与せず存在意義が不明の表皮葉緑体に着目した独自の解析から、不適応型病原糸状菌の攻撃に対して表皮葉緑体が表皮細胞の表層側へと移動する現象(表皮葉緑体応答)を発見し、本応答は葉緑体光定位運動の制御因子CHUP1により負の制御を受けていることを示した。CHUP1タンパク質の量を人工的に増減させた植物は、病原糸状菌の侵入を阻止する非宿主抵抗性が低下していることを突き止めた。さらに、複数の植物免疫因子(GSH1、EDS5、CAS)が表皮葉緑体に優先的にに局在し、表皮葉緑体応答にともなって表皮細胞内を移動することも明らかにした。これら免疫因子の遺伝子に変異をもつ植物も病原糸状菌に対する侵入阻止型の非宿主抵抗性が低下していた。表皮葉緑体の存在意義の一端を初めて報告した本成果を主軸とする研究は、当該論文だけに留まらず、和文の解説および英文の総説としても掲載された。 さらに、関連する研究として、GSH1、EDS5、CAS、CHUP1、EDR1、PEN2など、複数の植物免疫因子が重層的に機能することで、様々な不適応型炭疽病菌に対する非宿主抵抗性が構築されていることを示すデータを追加で取得し、今後の研究展開の端緒となる論文を発表した。 また、表皮葉緑体応答を誘発する病原糸状菌の因子を特定するための研究準備を行った。本応答は病原糸状菌の貫穿糸形成を必要とし、貫穿糸からの細胞外分泌活性にも相関を示す。しかし、植物の主要なPAMP受容体構成因子には依存しない。誘導因子をさらに探索するため、細胞壁分解酵素の発現制御に関与すると推定される遺伝子およびエフェクター遺伝子に変異をもつウリ類炭疽病菌株を入手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、表皮葉緑体応答を誘発する病原糸状菌の因子を特定するための研究準備を行った。本応答は病原糸状菌の貫穿糸形成を必要とし、貫穿糸からの細胞外分泌活性にも相関を示す。しかし、植物の主要なPAMP受容体構成因子には依存しない。誘導因子をさらに探索するため、細胞壁分解酵素の発現制御に関与すると推定される遺伝子およびエフェクター遺伝子に変異をもつウリ類炭疽病菌株を入手し、2022年度の解析に向けた準備を整えた。 また、葉肉細胞の葉緑体分裂制御因子に変異をもつシロイヌナズナ変異体を複数解析し、表皮葉緑体の分裂制御にも関与している因子を探索した。表皮葉緑体の分裂異常を示す変異体について表皮葉緑体応答を解析した結果、野生型植物と比較して応答が低下していることが明らかとなった。このことから、細胞内移動だけでなく、分裂も表皮葉緑体の免疫応答に関与している可能性が考えられた。 EMS処理を行った野生型シロイヌナズナに対して、本来は不適応型のコスモス炭疽病菌の壊死斑形成を指標にした変異体スクリーニングを継続した。現在までに複数の候補変異体が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、表皮葉緑体応答を誘発する病原糸状菌の因子を特定するため、細胞壁分解酵素の発現制御に関与すると推定される遺伝子およびエフェクター遺伝子に変異をもつウリ類炭疽病菌株について、シロイヌナズナのpen2変異体に対する表皮葉緑体応答の誘導能を解析する。 表皮葉緑体の分裂制御因子に変異をもつシロイヌナズナを用いて、表皮葉緑体応答と不適応型炭疽病菌の侵入率の解析を比較しながら実施し、表皮葉緑体の分裂と免疫応答の関係を明らかにする。 不適応型のコスモス炭疽病菌の壊死斑形成を指標にしたEMS処理シロイヌナズナの変異体スクリーニングを継続する。また、2021年度に取得した候補変異体について、ゲノム配列情報をもとにMutMAP法で原因遺伝子の特定を試みる。
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