研究実績の概要 |
2化性のカイコの次世代卵の休眠性は母蛾が胚期に受容した温度条件で決定し,これは温度依存的休眠誘導といわれる。環境温は温度センサー (BmoTRPA1) によって受容され,その情報は蛹期に脳内神経ネットワークに可塑的変化を生み,これが最終的に休眠ホルモン (DH) の放出制御に繋がり休眠性が決定される。最近になって環境温情報は時計因子の仲介により脳可塑性を誘起することを明らかにした。また,BmoTRPA1のノックアウト (KO) 系統では,胚期の温度条件は休眠性の決定に関与せず,幼虫期の光周期に依存して休眠性が決定されることを発見した。これらの結果を踏まえ,本研究では休眠誘導における環境温の情報受容とそのシグナル経路を解明するとともに,環境温情報が優先的に利用される仕組みを時計因子に焦点を当て分子レベルで解明することを目的とした。特に BmoTRPA1 の下流で機能する遺伝子の同定・機能解析,温度依存的休眠誘導における時計因子群の機能解析,蛹の脳内神経ネットワークに重点を当てて研究を進めた。その結果,時計遺伝子のうち,period (per), timeless (tim), Clock (Clk), cycle (cyc), cryptochrome2 (cry2) の KO 系統では温度依存的休眠誘導が失われ,per, tim, Clk, cyc の KO 系統では血液中の DH 濃度が減少していた。さらに,per, tim, cry2 の遺伝子発現は胚期の温度感受性時期において概日リズムを示すことが分かった。これらのことから,カイコの温度依存的休眠誘導は時計遺伝子群の時計機能により調節されていることが示唆された。一方,ある種の時計関連遺伝子の発現が胚期の温度感受性時期に特徴的な発現動態を示すことを明らかにした。
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