研究課題/領域番号 |
21H02207
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
早川 洋一 佐賀大学, 農学部, 招へい教授 (50164926)
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研究分担者 |
落合 正則 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (10241382)
龍田 勝輔 佐賀大学, 総合分析実験センター, 助教 (00565690)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ストレス / ホルミシス / 昆虫 |
研究実績の概要 |
予め弱いストレスを経験した生物個体が、次に来る強いストレスに対する耐性を獲得する能力がホルミシス(あるいは順応性)と総称される生理的潜在能力である。幅広い生物学分野においてその重要性は認識されているものの、分子レベルでのホルミシス誘導機構・持続機構については未解明な生理現象と言える。本研究では、特に後者の持続時間の決定分子機構に焦点を当てて解析を推進している。今年度は主にコナチャタテとキイロショウジョウバエの2種類の研究材料を対象に研究を進めた。 先ず、コナチャタテ類のヒラタチャタテは特に乾燥に弱い小型昆虫であることから、予めの乾燥ストレスによる乾燥に対する耐性(順応性)誘導現象の有無について検証を行った。その結果、湿度20%の前乾燥ストレスを2日以上与えたヒラタチャタテ個体においては、有意に乾燥耐性が増強される事が確認できた。従って、昆虫類のホルミシス現象は、従来より報告のあったチョウ目やハエ目という進化的に新しい完全変態昆虫のみならず、比較的原始的な不完全変態昆虫においても保持されている能力である事が明らかになった。 次に、キイロショウジョウバエを用いた解析では、3齢幼虫を用いて形成されるホルミシス持続時間の決定機構に関する基礎実験を行った。即ち、予めの熱ストレス(37度/30分間)供与の回数や間隔を変化させる事によって、その後形成されるストレス耐性の持続時間への影響を評価した。その結果、1回の前ストレス供与よりは、30分間のインターバルを設けて2回、3回と複数回前ストレスを与えた方が長いストレス耐性持続時間を維持できる事が分かった。次に、インターバルを30分から12時間へと延長したところ、同じ2回のストレス回数でも、12時間のインターバルの方がより長いストレス耐性持続時間となる事が明らかになった。今後、更に、前ストレス供与条件の検討が必要となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度、本研究では2種類の昆虫を用いてホルミシス誘導に関する事なる実験を行なった。先ず、これまで殆ど生理学的研究対象にならなかった不完全変態昆虫の一種であるチャタテムシ目のヒラタチャタテを材料にホルミシスによる乾燥ストレス耐性増強(順応性)が起こり得るか否かについて検証した。解析の結果、湿度20%の前乾燥ストレスによってその後の乾燥ストレス耐性の上昇を確認できた。この結果は昆虫におけるホルミシス(ストレス順応性)現象が、進化的背景が大きく異なる多様な昆虫種において広く保存されている生理的形質であることを示唆するものと解釈できる。次に、キイロショウジョウバエ幼虫を使った熱ストレス順応性の持続時間に関する基礎実験では、予めの熱ストレス処理回数を増やす事によって、その後のストレス耐性が上昇する事を確認した。更に、前ストレス処理を繰り返す場合、30分間という短いインターバルよりは12時間という長いインターバルの方がより強いストレス順応性を誘起し得る事が明らかになった。ホルミシスの持続時間に焦点を当てている本研究ではより長いストレス順応性を誘起し得る前ストレス条件を確定する事が重要であり、本年度得られた知見は今後の研究計画を考える上で意味のある成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は以下の2つの研究を並行して進める予定である。 1)ヒラタチャタテは乾燥ストレスに対して極めて高い感受性を示すが、湿度20%前後の前乾燥処理によってその後の(致死的)乾燥ストレスに対する耐性が増強される事が明らかになった。今年度は、より高い乾燥ストレス耐性増強効果を誘起し得る前乾燥処理条件について更に検討する。また、予めの前乾燥ストレス処理を施した個体がその後どのくらいの期間、増強した乾燥ストレス耐性を維持できるかについても調べる。更に、異なるストレス、例えば予めの低温あるいは高温といった温度ストレスによって、その後の乾燥ストレスに対する耐性を増強し得るかについても検証する。 2)前年度、キイロショウジョウバエ幼虫については37度/30分という一回の(予めの)前熱ストレスによってその後6時間程度は40度/30分という致死的熱ストレスに対して有意に高いストレス抵抗性が維持される事を確認した。しかしながら、獲得した熱ストレス耐性も10時間以上持続する事はなかった。対して、37度/30分という前熱ストレスを2回、3回、4回連続して(30分間のインターバルで)与えた場合には、1回のみの前ストレス処理よりも高い熱ストレス耐性の維持時間は延びる傾向が見られた。今年度は、同様の解析を継続して行う予定であるが、特に、より長いインターバルで複数回の前熱ストレスを供与した場合の獲得ストレス耐性への影響について評価したい。実験に用いるのは幼虫期のキイロショウジョウバエである為、発育速度も早く実験可能な時間的制限もある。その為、前ストレス期間とその後の致死ストレス後の影響評価を十分に設定できる実験計画を立案する。より効果的なホルミシス誘導条件が明らかになったならば、当該条件でも有意な熱ストレス耐性が上昇しないキイロショウジョウバエ形質転換体の探索実験の準備を開始する。
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