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2021 年度 実績報告書

昆虫のトリプトファン代謝酵素遺伝子の喪失と細菌からの再獲得-生物的意義と産業応用

研究課題

研究課題/領域番号 21H02209
配分区分補助金
研究機関学習院大学

研究代表者

嶋田 透  学習院大学, 理学部, 教授 (20202111)

研究分担者 李 允求  学習院大学, 理学部, 助教 (50847168)
研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2025-03-31
キーワードキヌレニン経路 / カイコ / 遺伝子喪失 / 水平転移 / 3-ヒドロキシアントラニル酸
研究実績の概要

動物におけるトリプトファンの主要な代謝経路はキヌレニン経路である。脊椎動物のキヌレニン経路では、TDO/IDO、KMO、KYNU、HAAO、ACMSDの5段階の酵素反応により、キヌレニンを経てキノリン酸やピコリン酸などが生じる。一方、昆虫では、ゲノム情報の比較から、それら酵素の存否が系統によって異なると予想されている。本研究は、昆虫および近縁の節足動物におけるキヌレニン経路の多様性と、その生物学的意義を明らかにすることを目指している。昆虫(外顎類)の共通祖先におけるキヌレニン経路を推定するために、古顎目に属するヤマトイシノミのゲノム解析およびトランスクリプトーム解析(RNA-seq)を実施した。その結果、ヤマトイシノミにはTDO、KMO、KYNU、HAAO、ACMSDの5つの酵素をコードする遺伝子が存在することを突き止め、それぞれほぼ完全長のmRNAの塩基配列を決定した。古顎目が、これら5遺伝子を全部持つ唯一の外顎類であることが判明した。総尾目のセイヨウシミのゲノム情報には、多くの有翅昆虫と同様に、TDOとKMOの2つしか存在しない。古顎目(単関節丘亜綱)と双関節丘亜綱の分岐後に、後者の共通祖先においてKYNU、HAAO、ACMSDの3つの酵素遺伝子を相次いで喪失したと考えれば、現存する昆虫の大部分がそれら3遺伝子を欠如することを矛盾なく説明できる。
他方、鱗翅目の昆虫はTDOとKMOに加えてKYNUを有しているので、3-ヒドロキシアントラニル酸(3HAA)を合成できる。しかし3HAAも、その前駆物質である3-ヒドロキシキヌレニンも、毒性をもつ化合物であるため、鱗翅目は何らかの未知の機構で、これらの毒性を回避していると予想される。そこでカイコやエリサンを用いて、KYNUなどの遺伝子ノックアウトを行い、形質の評価と代謝産物の同定を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

昆虫(外顎類)の共通祖先におけるキヌレニン経路を解明するために、古顎目に属するヤマトイシノミ(Pedetontus nipponicus)のゲノム解析およびトランスクリプトーム解析を実施した。その結果、ヤマトイシノミにはTDO、KMO、KYNU、HAAO、ACMSDの5つの酵素をコードする遺伝子が存在することを明らかにした。また、種々の組織のRNA-seq解析を行った結果、それら5つの遺伝子に相当するほぼ完全長のmRNAの塩基配列が得られた。これら5遺伝子をすべて有する外顎類は従来知られておらず、新知見である。総尾目のセイヨウシミ(Lepisma saccharina)のゲノム情報を検索すると、キイロショウジョウバエなどの有翅昆虫と同様に、TDOとKMOの2つしか遺伝子を有していないことが分かった。単関節丘亜綱と双関節丘亜綱の分岐後に、後者の共通祖先においてKYNU、HAAO、ACMSDの3つの酵素遺伝子を相次いで喪失したと考えれば、現存する昆虫の大部分がそれら3遺伝子を欠如することを説明できる。
鱗翅目の昆虫はTDOとKMOに加えてKYNUを有しており、3-ヒドロキシアントラニル酸(3HAA)を合成できる。しかし3HAAも、その前駆物質である3-ヒドロキシキヌレニンも、毒性をもつ化合物である。何らかの未知の機構で毒性を回避していると予想されるので、KMO、KYNUなどの遺伝子をCRISPR/Cas9法でノックアウトした。すでに系統が得られており、現在形質の評価を行なっている。

今後の研究の推進方策

無翅昆虫におけるゲノムの進化の解明は、昆虫特有の生化学システムを理解する上で重要である。キヌレニン経路が、昆虫の共通祖先において大きな変化を遂げたことを立証しようとしている。節足動物全体では、完全なキヌレニン経路を有するものが多く、ヤマトイシノミは、それら節足動物が共有する祖先的な遺伝子セットを保存しているといえる。なぜ昆虫の大部分を占める双関節丘亜綱において、キヌレニン経路の後半部分が喪失したのか、現在、それを明らかにしようとしている。
鱗翅目の昆虫では、TDOとKMOに加えてKYNUを有しているので、3-ヒドロキシアントラニル酸(3HAA)を合成できる。しかし3HAAも、その前駆物質である3-ヒドロキシキヌレニン(3HK)も、毒性をもつ化合物であるため、鱗翅目昆虫は何らかの方法でそれらを無害化していると想像される。現在、3HKや3HAAの輸送や貯蔵の生化学的機構を解明しつつある。また、遺伝子ノックアウトの実験でも新規な結果が得られているので、本研究は昆虫のキヌレニン経路についての理解を大きくアップデートすることになると考えている。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (1件) (うちオープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] チョウ目昆虫のゲノム情報の整備状況と野蚕ゲノム解析の位置づけ(特集「野蚕のバイオリソースとゲノム情報」)2021

    • 著者名/発表者名
      嶋田 透
    • 雑誌名

      蚕糸・昆虫バイオテック

      巻: 90(3) ページ: 165-177

    • DOI

      10.11416/konchubiotec.90.3_165

    • オープンアクセス
  • [学会発表] エリサンとシンジュサンの交雑後代で生じる赤繭形質の発現を支配する遺伝子基盤の解明2022

    • 著者名/発表者名
      李 允求・嶋田 透
    • 学会等名
      令和4年度 蚕糸・昆虫機能利用学術講演会(日本蚕糸学会第92回大会)

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公開日: 2023-12-25  

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