研究課題/領域番号 |
21H02252
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
横山 朝哉 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (10359573)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | リグニン / 過酸化水素 / バニリン / アルカリ性 / モデル化合物 |
研究実績の概要 |
本研究では、木質バイオマスの主要三構成成分のうちの一つであるリグニンの利用において、他の主要成分であるセルロースとヘミセルロースの活用を担保することができない天然リグニンを原料とする方法を開発するのではなく、製紙用パルプ製造過程で得られるクラフトリグニンやソーダリグニン等の副次生成リグニンを原料とすることによって上記の活用を担保し、木質バイオマスの主要三成分のすべてを有効活用することに対して大きく貢献することを、広義の目的としている。 これまでの研究代表者の四半世紀にわたる研究で得た知見によれば、高アルカリ性下での過酸化水素処理においては、その自己分解で生成するオキシルアニオンラジカル(ヒドロキシルラジカルの共役塩基)がリグニンの芳香核ではなく脂肪族側鎖を選択的に攻撃するため、リグニンの芳香核構造が変質しない。本研究ではこの知見に基づいて、上記副次生成リグニンの高アルカリ性下における過酸化水素処理によって、ファインケミカルであるバニリン類を製造することを目的としている。 令和3年度は、バニリン類が生成する最適条件をモデル的に検討するため、一般的な非フェノール性β-O-4型リグニンモデル化合物である2-(2-メトキシフェノキシ)-1-(3,4-ジメトキシフェニル)-1,3-プロパンジオール(ベラトリルグリセロール-β-グアイアシルエーテル、VG)を化学合成し、VGを様々な添加剤と共に高アルカリ性下での過酸化水素処理に供した。その結果、水酸化ナトリウム濃度3.0mol/L、塩化第二鉄添加濃度1.08mmol/L、およびマンニトール添加濃度3.24mmol/Lとして、30μmolのVGに対して過酸化水素4.5μmolを15秒間隔で400回添加した場合に、バニリン類の総収率が47%(消失VGベースでは80%)で最大となり、これらを最適条件と設定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、令和3年度終了時の進捗は、モデル化合物であるVGを、様々な添加剤と共に高アルカリ性下における過酸化水素処理に供し、バニリン類が得られるのに最適な反応条件を確立するまでであった。この進捗は、令和3年度の交付申請書で記載した進捗予定と同程度であったため、「(2)おおむね順調に進展している。」を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、モデル化合物VGを用いた最適反応条件の構築はほぼ終了した。今後は、この最適反応条件およびその周辺の条件の下で副次生成リグニンを処理し、副次生成リグニンに最適な反応条件へと再調整を行う。このために、次の研究を行う予定である。 ①針葉樹材および広葉樹材それぞれを、クラフト蒸解、ソーダ蒸解、およびクラーソン(硫酸)処理の条件下での反応に供し、副次生成リグニンであるそれぞれクラフトリグニン、ソーダリグニン、および酸リグニンの調製を行う。 ②これらの副次生成リグニン試料それぞれを、令和3年度に構築したVGに対する最適条件を基にした高アルカリ性下における過酸化水素処理に供し、バニリン類が最大で得られるような添加剤の種類を含めた反応条件の再最適化を行う。 ③これらの副次生成リグニン試料それぞれを、アルカリ性ニトロベンゼン酸化処理に供し、それぞれの試料から生成するバニリン類の収率を測定する。アルカリ性にトロベンゼン酸化処理は、リグニン試料から最大量のバニリン類を与える方法であるため、②における収率では、この収率になるべく近い値を得ることを目標とする。なお、ニトロベンゼンには毒性があるため、アルカリ性ニトロベンゼン酸化を用いたバニリン類の製造は、応用展開をすることが不可能であるを追記しておく。
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