研究課題
コレステリック液晶(CLC)は分子らせん構造を自発的に形成し、その分子らせん周期長に応じた波長の光を反射する。白色光を法線方向から入射すると、反射光は分子らせんの掌性と同じ向きの円偏光となる。円偏光には左円偏光(L-CPL)と右円偏光(R-CPL)の2種類があり、これらは肉眼で判別できない。たとえば、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)は、側鎖にアシル基を導入して適切な溶媒に溶解するとリオトロピックCLCになり、通常R-CPLによる反射色を示す。また、架橋性HPC誘導体をアクリレート溶媒に溶解して光硬化することで、R-CPLによる反射色を示すCLC固定化膜を得ることができる。今年度は、左右両円偏光を反射するHPC誘導体のCLC固定化膜の創製を目指した。まず、数多くの架橋性HPC誘導体を合成し、アクリレート溶媒に溶解したリオトロピックCLCを調製した。その後、せん断配向処理後に光硬化して作製したCLC固定化膜の左右円偏光透過スペクトルを測定した。前年度に、側鎖にアシル基のみを導入したHPC誘導体が形成するCLCの粘弾性挙動を調査していたところ、HPC誘導体にせん断ひずみを印加すると、通常のR-CPLだけでなく、L-CPLの反射色も発現した。この現象を応用し、架橋性HPC誘導体のリオトロピックCLCについてせん断配向処理後に光硬化すると、左右両円偏光を反射する特異なCLC固定化膜を得ることができたのである。このような原因を①HPC誘導体の化学構造、②アクリレート溶媒の種類、③膜厚、④せん断配向処理の条件、⑤光硬化の手法というポイントで調査したところ、せん断配向処理によるCLCの分子らせん構造の傾斜と複屈折の増加が影響していると推察した。今後、円偏光反射特性を自在に制御できれば、肉眼で判別不可能な文字やパターンをCLC固定化膜に記録でき、偽造防止技術への応用ができる。
2: おおむね順調に進展している
2022年度は、セルロース誘導体のコレステリック液晶について粘弾性特性を調べ、多くの知見を得ることができたので、順調に研究を進めることができたといえる。さらに、技術的に優れた研究成果も見出しており、学内審査を経て6件の特許出願を行うことができた。今後、学会発表や特許出願に加えて、学術論文の掲載を目指して研究を推進する。
これまでにレオメーターを使って見出したせん断によるセルロース誘導体のコレステリック液晶における分子らせん構造の変化に着目して、さらに研究を進める。このような光学的・力学的物性の評価だけでなく、新規セルロース誘導体の合成も平行して進め、将来的に本研究提案のバリエーションが広がるよう研究を推進する。
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