研究課題/領域番号 |
21H02263
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松野 孝平 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (90712159)
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研究分担者 |
藤原 周 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(北極環境変動総合研究センター), 研究員 (00756489)
安藤 卓人 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 特任助教 (30852165)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 極域 / 植物プランクトン / 珪藻類 / 休眠期細胞 / バイオマーカー / 海氷 |
研究実績の概要 |
本研究は、海氷衰退が著しい北極海陸棚域において、海氷下と海底面での珪藻類による一次生産量と種組成を明らかにし、海氷分布と比較することで、海氷変動による珪藻類生産への影響を解明することを目的としている。令和3年度(2021年度)は、JAMSTEC海洋地球研究船みらいの北極航海(2021年8月28日~10月22日)に参加し、太平洋側北極海において海氷試料(4地点)、海水試料(45地点)および海底堆積物(11地点)を採取した。また、船上において、本研究課題の予算で購入したPAM(パルス変調蛍光光度計)を用いた光合成パラメーターの測定(175回)、およびviability染色キットによる生死判別試料の作成も行った。2021年度の太平洋側北極海は、例年よりも海氷が多く残っていたために、海氷のサンプリングができたことが大きな成果である。これにより、同一地点において、海氷、海表面の海水、亜表層クロロフィルa最大層の海水、海底直上10 mの海水、海底堆積物の直上水および海底堆積物を採取し、かつPAMによる光合成活性の測定と生死判別分析もできているため、本研究課題の核をなす結果が得られると期待できる。本研究に関連する研究成果としては、査読付き論文4報、学会での口頭及びポスター発表を6件行った。 令和3年度において、最も重要な研究成果としては、太平洋側北極海の海底堆積物中の珪藻類の休眠期細胞の分布と組成は、海氷の融解時期や分布に大きく影響を受けていることを明らかにした点である。これにより、本研究課題で設定した仮説「海氷変動が珪藻類の休眠期細胞に影響を与えること」が実証された。この研究では、アイスアルジーの存在割合が、結氷期間が長い海域ほど高くなることも示している。この成果は、本研究で取り組むバイオマーカー(つまり、アイスアルジー)の分布も、海氷と密接に関係していることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度(2021年度)は、JAMSTEC海洋地球研究船みらいの北極航海(2021年8月28日~10月22日)に参加し、太平洋側北極海において海氷試料、海水試料および海底堆積物を採取した。2021年秋季は、例年よりも大幅に海氷が残っていたため、海氷も採集することができた。これらの試料の分析により、本研究課題で注目している海氷下での生産を検討する重要なデータを得られると期待できる。船上において、採集した海水および海氷試料は、全てPAMによる光合成活性の測定を行い、光強度と一次生産速度(電子伝達速度)の関係式を得た。次は、研究分担者によって、衛星データと現場での鉛直的な光の減衰の関係を使い、各水深での光強度を求め、現場で測定した光-光合成曲線に導入する予定である。最終的には、各地点における鉛直積算した一次生産量を計算することができる。また同一試料を用いて、細胞の生死判別実験も行っているため、珪藻類の生細胞割合を求めることができ、一次生産量の多寡を説明する変数として解析に用いる。海底堆積物については、MPN法によって休眠期細胞数の推定を行う。また、研究分担者によってバイオマーカー分析も進める。現在挙げられる問題点として、海底堆積物中で生きている珪藻類の細胞による一次生産速度は、PAMによる光学的な分析では測定できないことが判明した。打開策として、酸素発生速度の測定と生細胞割合の組み合わせなど、別の方法を検討する必要がある。最終的には、海氷変動によって珪藻類の生産動態の変化に関わる知見が得られると期待できる。 このように、海洋観測による試料採集とデータ取得を継続的に行っており、過去の試料も活用して得られた成果を論文として発表していることから、本研究課題が着実に実施され、進捗状況がおおむね良好であると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題を達成するために、本研究では以下の5つのサブテーマを設けている。それぞれ1.休眠期細胞の評価、2.バイオマーカーの分析、3.堆積物の一次生産量評価検討、4.海氷と光環境の衛星観測、5.成果発表である。 サブテーマ1および2については、過去の試料に加えて、2021年度に多くの試料採集が出来たので、引き続き分析を進める。特に、海水と海氷試料では、PAMによる光-光合成曲線の測定、細胞の生死割合の分析、珪藻類の細胞密度と組成を包括的に解析できる試料セットを作成できた。これらの分析および解析によって、本研究課題の仮説「休眠期細胞を作らない珪藻類による生産が海氷変動から受ける影響」を検証できると期待される。サブテーマ3に関しては、PAMによる光学的アプローチでは堆積物中の珪藻類の一次生産速度をうまく測定できないことが判明したため、別の方法を検討する必要がある。具体的には、酸素発生法による一次生産速度の見積もりと細胞の生死判別を組み合わせた分析を計画している。サブテーマ4については、研究分担者が既に現場での鉛直的な光減衰パラメーターを有しているため、衛星による海表面での光強度を地点ごとに求めることで達成される。上記の研究推進により、得られた成果は、随時論文にまとめ発表していく。
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