研究課題/領域番号 |
21H02264
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
足立 伸次 北海道大学, 水産科学研究院, 名誉教授 (40231930)
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研究分担者 |
井尻 成保 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (90425421)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | チョウザメ / 性分化 / 卵成熟 / 排卵 / 卵質 |
研究実績の概要 |
本研究では、チョウザメの性分化、卵成熟、排卵および卵質悪化の分子機構解明を推進し、各ステージに特徴的な分子マーカーを利用して、早期性判別、安定的良質卵生産技術および全雌生産技術を確立することを目的としており、本年度は下記の3項目について、分子機構解析と関連技術開発を行なった。 1)性分化:最近、コチョウザメにおいて雌特異的な増幅を示すプライマー(AllWSex2)が見出された。本年度は、アムール、ダウリア(カルーガ)、ミカドチョウザメおよび各種雑種において、本プライマーを用いた遺伝的性判別が可能であることを検証できた。さらに、チョウザメ類における濾胞刺激ホルモン(Fsh)と性分化との関係を明らかにするために、組換えFshを作製し、レポーターアッセイにより生物活性を有することを確認した。 2)卵成熟および排卵:チョウザメの場合、生体外培養で卵成熟能および排卵能を確認した後、生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)注射することで卵を得ているが、タイミングが不適切な場合は良質卵が得られない。これまで、プロスタグランジン合成関連遺伝子発現を指標とした採卵適期推定法を検討してきたが、適当な指標はみつからなかった。そこで、GnRH注射の直前に採取したアムールチョウザメ卵濾胞サンプルを用いて、RNA-seq解析を行なったところ、いくつかの候補遺伝子を見出した。これら遺伝子のうち、Wntシグナルに関与する2個の遺伝子の発現動態を調べたところ、排卵個体ではGnRH注射直前に発現ピークが存在することが判明した。 3)卵質悪化:これまで、ニホンウナギにおいて、母性mRNA量および局在の差異から、孵化までの胚発生過程で異常が生じる不良卵の分子生物学的特徴の一部を明らかにしている。本年度は、様々な卵質のアムールチョウザメ卵を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)性分化:各種純粋種および雑種においてAllWsex2プライマーを用いた遺伝的判別が可能であることは検証できたが、Allwsex2領域の近傍配列は未知であり、性決定に重要な役割を果たす遺伝子は同定できていない。しかし、これまで試みたすべてのチョウザメ種で偽雄や超雌を特定できる手法が得られたことは大きな成果である。一方、組換えFshが生物活性を有することは確認できたが、未分化生殖腺の培養実験については、実施できなかった 2)卵成熟および排卵:排卵関連遺伝子のうち、Wntシグナルに関与する2個の遺伝子の発現動態を調べたところ、排卵個体ではGnRH注射直前に発現ピークが存在することが示唆できた。すなわち、卵成熟、排卵誘導前に採卵適期を推定できるマーカーを得ることができた可能性が高く、安定的良質卵生産技術の確立に向けて大きな前進があった。 3)卵質悪化:様々な卵質のアムールチョウザメ卵を得ることはできたが、それらのESTdbは構築できていない。ウナギでは、卵の母性mRNA量や局在が卵質に大きく関わることが明らかになりつつあり、チョウザメでも同様か否かを調べる必要がある。本研究課題も安定的良質卵生産技術の確立には不可欠と言える。
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今後の研究の推進方策 |
1)性分化:今後は、アムールチョウザメにおいてAllWSex2配列周辺の塩基配列を決定することで、その配列近傍の遺伝子を特定し、雌雄の配列を比較する。また、養殖現場におけるチョウザメ類の遺伝的性判別の実用化を目標として、より簡便で低コストな遺伝的性判別法を検討する。また、偽雄(候補)と通常雌とを交配した子孫(WW超雌を含む可能性もある)もいくつか有しているため、ZW偽雄およびWW超雌の存在を確認する。さらに、組換えFshの純度をさらに高め、組換えFshあるいはエストロゲンとともに未分化生殖腺を培養し、性分化関連遺伝子の発現動態について明らかにする。 2)卵成熟および排卵:Wntシグナルに関与する2個の遺伝子は黄体形成ホルモン(LH)による転写制御を受け、排卵能獲得に関与する可能性が高いこともわかった。そこで、今後はこれら2遺伝子に特に着目し、LH存在下で培養した卵濾胞サンプルを用いて、生体外における発現動態を調べる。また、in situ hybridizationにより、その発現部位を特定する。 3)卵質悪化:これまで、様々な卵質のアムールチョウザメ卵を得ることができたため、今後はそれらのESTdbを構築する。また、卵においていくつかの母性mRNAの局在が確認可能かを検討する。
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