研究課題/領域番号 |
21H02272
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
石橋 泰典 近畿大学, 農学部, 教授 (90247966)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 行動制御 / 光波長 / 魚類 / 種苗生産 / 養殖 / 輸送 |
研究実績の概要 |
初年度は稚魚の行動制御と仔魚の飼育成績等の影響に分けて検討した。 1.稚魚の行動制御: 特殊プロジェクターを用い,長方形の浅型水槽にカンパチ等の数種海産稚魚を5尾ずつ収容して,様々な光を照射した。灰色光を対照区として水槽片側の半分に照射し,同じ光子量の赤,緑および青色光を対面にそれぞれ照射して2分毎に左右を切り替え,各領域に存在する魚の尾数を各光波長の選択率として調べた。その結果,赤色光の選択率が顕著に低いこと,青色光の選択率が高いこと等が示唆された。これまでの対光行動の研究でプロジェクター光を利用した例は見受けられないが,本研究により短時間で明確な差を見出せる可能性のあることが示唆された。 2.クロマグロ仔魚の飼育成績等に及ぼすLED光の影響: まず飼育水にナンノクロロプシス,淡水クロレラ,貝化石等を添加しない透明な人工海水環境下で,仔魚の飼育成績に及ぼす照度等の光環境,流動等の影響を検討し,視覚実験に適切な飼育方法を見出した。そこで次に,以下の実験を行った。 (1)視物質遺伝子の発育に伴う変化: 上記飼育方法でクロマグロ仔稚魚を飼育して各種日齢で採取し,光波長を感受する視物質オプシン遺伝子の発現様式を発育段階毎に調べた。その結果,摂餌開始期には赤,緑,青およびUVを含むすべての光波長の視物質遺伝子が最低1つ発現していることが示唆された。 (2)摂餌,浮上,沈降行動に及ぼす光波長の影響: 仔魚を2Lビーカーに収容し,白,黄,緑,青,UV,白+UVおよび黒色区の計7試験区で各種LED光を照射した結果,黄色およびUV光でワムシの摂餌数が増加した。また,黄色およびUV光に負の走光性が確認され,浮上死率が有意に少なくなった。すなわち,クロマグロ仔魚は,紫外線や黄色光などの特定波長で浮上死率が低下すること,摂餌率等が顕著に高まることがそれぞれ示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は,数種稚魚の行動制御方法の検討と仔魚の飼育成績の影響に分けて研究を計画した。クロマグロ等のいくつかの海産稚魚に関しては,本学水産研究所等の協力機関に出向いて実験を実施する予定であったが,コロナ禍の影響で制限があり,当初は予定した魚種の実験が実施できなかった。そこで,研究室で入手できたカンパチ等を含む数種の稚魚を用いて調べた結果,プロジェクターの光波長を使って行動を制御できる可能性のあることが示唆された。また,輸送過程で大量死が発生し易く,本研究の主要対象種の1つでもあるクロマグロ稚魚や他の海産種苗についても,その後に実験ができるようになり,同様の傾向が観察された。さらに,クロマグロ等の仔魚に関しては,協力機関に卵を空輸してもらい,LED光を使った飼育成績の検討を予定どおりに実施して,明確な成果を見出すことができた。このため,達成度は「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
カンパチ等の稚魚の対光行動は,光波長の影響を受けることが示唆された。特に,赤色光に対する反応が,赤,青および緑の三原色の中では最も顕著なことが示唆された。他に調べた海産種苗でも同様の傾向が見られたため,次年度以降は,淡水魚を含む分類上の幅広い種の稚魚を用いて,赤色光に対する反応の特性を幅広く調べることが効率的と考えられた。それによって,光に対する反応が分類や生態などに関係する知見が得られるかもしれず,研究が効率的に進みやすいと思われた。 仔魚の行動実験に関しては,LEDを使った実験により,摂餌行動や浮上行動などが明確に変化することを見出すことができた。一方で仔魚の遊泳行動の速度が遅いため,稚魚と同様に特殊プロジェクター光を使った反応が効果的に起きる条件を検討する必要があると考えられた。
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