現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
海水魚集合管の高い水透過性を維持する分子メカニズム、および淡水魚集合管の低い水透過性を維持する分子メカニズムの解析: 海水魚集合管の高い水透過性は、集合管のapical膜とbasolateral膜にそれぞれ存在する水チャネル(aquaporin, Aqp)によるものだと考えられる。天然海水で飼育したトラフグ集合管のRNA-Seq解析から得られた情報を基に、集合管に高発現するAqpとしてAqpx, Aqpy(仮名)を同定した。これらに特異的なポリクローナル抗体を作製し、トラフグ腎臓に対して免疫組織化学による解析を行った結果、Aqpxが集合管のapical膜に、Aqpyがbasolateral膜にそれぞれ存在することを明らかにした。この結果は、海水魚集合管が高い水透過性を有して等張尿を産生することに、Aqpx, Aqpyが寄与していることを示している。一方、淡水魚集合管は低張尿を産生するために水透過性を持たないことが重要であり、集合管におけるAqpx, Aqpyの活性は何らかの形で抑制される必要がある。希釈海水で飼育したトラフグは低張尿を産生することを確認したので、このトラフグにおいてAqpx, Aqpyの活性がどの様に抑制されるかについて解析したが、想定より難航しており、今後も解析を継続する。 海水魚集合管のホウ酸排出を担う分子メカニズムの解析: トラフグ集合管のRNA-Seq解析から、Aqpz(仮名)も集合管に高発現することが明らかになった。Aqpzはアクアグリセロポリンファミリーに属し、水の他にグリセロールや尿素も輸送する。アフリカツメガエルの卵母細胞に発現させたトラフグAqpzを解析したところ、ホウ酸も基質として輸送することが明らかになった。ホウ酸は海水の成分の1つであり、我々は海水魚がホウ酸を尿中に濃縮することを見出している。Aqpzは集合管を介したホウ酸排出に寄与する可能性が高く、今後解析を継続する。
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今後の研究の推進方策 |
淡水魚集合管の低い水透過性を維持する分子メカニズムの解析: 希釈海水で飼育したトラフグ腎臓に対して免疫組織化学による解析を行った結果、Aqpx, Aqpyとも発現を確認した。海水飼育したトラフグ腎臓の結果と比べて、共焦点顕微鏡を用いた解析からは、局在変化を見出すことはできなかった。低浸透圧順応におけるAqpx, Aqpyの活性抑制は細胞膜から細胞内顆粒への移行に起因する可能性が依然として存在するが、この移行は光学顕微鏡の解像度では検出できない可能性が考えられる。そこでその可能性を確かめるため、免疫電子顕微鏡法による解析を進める。 海水魚集合管のホウ酸排出を担う分子メカニズムの解析: トラフグ集合管に発現するホウ酸輸送体Aqpzのポリクローナル抗体を作製し、免疫組織化学による解析を行うことにより集合管細胞におけるAqpzの細胞内局在を確定する。これまでの解析から、陰イオン交換輸送体ファミリーの1つであるSlc4a11もホウ酸を輸送することを見出している。これらの解析を進め、海水魚集合管がホウ酸を排出する分子メカニズムを明らかにする。 淡水魚の集合管におけるNaClの再吸収機構の解析: 淡水魚や広塩性魚類の集合管、及び淡水魚・海水魚の膀胱にはNaCl共輸送体(Ncc)が高発現し、apical膜に局在する。魚類Nccをアフリカツメガエル卵母細胞に発現させ、その活性測定系を確立する。その後、Nccの活性を制御する因子の候補をRNA-Seqデータから特定し、アフリカツメガエル卵母細胞に共発現させてNccの活性を促進する因子の特定を試みる。
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