研究課題
浅い湖沼は重要な温室効果ガスであるメタンの放出源である.湖からのメタン放出は温度などの物理環境要因だけでなく,富栄養化に伴う堆積層への有機炭素供給の増加などの生物地球化学的要因によっても影響を受けることが提案されている.本研究は,メタン放出の連続測定,堆積層への有機物供給及び水質測定,堆積物中のメタン生成実験を融合することで,湖の栄養レベルの変化が大気へのメタン放出の季節・年次変化にどのように,そしてどの程度影響するかを明らかにすることを目的としている.2021年度には,渦相関法によるメタン放出量,気象・湖内環境の連続測定,定期的な溶存メタン濃度の観測,水質観測を実施した。また、湖底堆積物中におけるメタン生成が藍藻添加に対してどのように応答するかを明らかにするために,培養実験を実施した.データ解析から、以下のことが明らかとなった。(1)これまでの6年間のメタン放出データを取りまとめ,その季節変化が水温で説明されることを明らかにした.また,夏の放出は温度だけで決まらない可能性を示した.(2)メタン放出の年変動をクロロフィルa濃度や水生植物繁茂面積と比較し,水生植物の根からの堆積物への炭素供給がメタン放出の年変動に関係している可能性を示した.(3)水中のクロロフィルa濃度と堆積物へのクロロフィルaの沈降量との間には正の相関があり,水中のクロロフィルa濃度の測定により沈降量を推定できることを示した.(4)藍藻を添加した堆積物ではメタン生成速度が有意に増加することを示した.
2: おおむね順調に進展している
本研究課題で計画していた研究は順調に実施できている.メタン放出や気象・湖内環境の連続観測は最大限欠測の無いように実施しており,季節変化や年々変動を明らかにするデータの取得ができている.メタン放出の年々変動を説明する要因の解析も進めており,それにより隔年で夏のメタン放出量が大きくなる変動が明らかとなった.その変動に対する有機炭素供給の影響を明らかにしようとしている.次年度には有機炭素供給源となる水生植物の繁茂面積の評価もする準備をしている.水質および堆積層への有機炭素供給の観測も継続して実施できている.水中のクロロフィルa濃度の測定が堆積層へのクロロフィルa供給を推定する上で有効であることがわかった.藍藻添加の培養実験については予定よりも早く実施できており,藍藻添加がメタン生成速度を有意に上昇させることがわかった.次年度は異なる有機炭素源の添加をする培養実験を計画している.
今後も予定通り計画を進めて,観測の継続をおこなう.それに加えて,堆積層への有機炭素供給源である水生植物の分布面積の変化がメタン放出の年々変動に影響する可能性が示されたので,その分布評価を衛星データを基に実施することを予定している.また,培養実験において水生植物起因の有機炭素を添加して,それに対するメタン生成速度の応答を評価する予定である.藍藻添加に対するメタン生成の応答に関して,論文にまとめる予定である.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件)
Progress in Earth and Planetary Science
巻: 8 ページ: -
10.1186/s40645-021-00450-7
Earth System Science Data
巻: 13 ページ: 3607-3689
10.5194/essd-13-3607-2021