研究課題/領域番号 |
21H02337
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小林 謙 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (30449003)
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研究分担者 |
川原 学 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (70468700)
磯部 直樹 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (80284230)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 乳腺上皮細胞 / TRPチャネル / 物理化学的刺激 / 乳産生 / 形態形成 / タイトジャンクション |
研究実績の概要 |
乳腺上皮細胞は妊娠にともなって増殖・分化し、分娩後に乳分泌を行う細胞である。また、乳腺上皮細胞は温度・伸縮などの物理的刺激やpH変化・生理活性物質などの化学的刺激に曝される細胞でもある近年、温度感受性TRPチャネルが温度のみならず、機械刺激、浸透圧刺激、生理活性物質などの化学刺激をも感知し、細胞の性状を調節することが明らかになりつつある。そこで本研究では物理化学的刺激を感知するTRPチャネルが乳腺上皮組織の形態形成と乳産生を調節すると仮説を立て、その実証を進めている。 研究初年度の今年は、特定のTRPチャネルをノックアウトした細胞において野生型の細胞と乳産生能力に違いがあるかを調べた。その結果、予想に反してノックアウト細胞と野生型細胞の間に違いは認められなかった。しかし、培養温度の変化や生理活性物質に対する応答性に違いがあった。培養液中の浸透圧を調節した実験では、乳腺上皮細胞のカゼイン産生能が浸透圧依存的に増減することがわかった。また、乳腺上皮細胞のスフェロイドを三次元培養した形態形成モデルの実験では、培養温度の上昇が乳腺上皮細胞の増殖を抑制し、乳管伸長や乳腺胞の形成を阻害することがわかった。培養温度を上昇させた場合、細胞増殖や生存性を制御する細胞内シグナル分子のAktとERKの活性化も認められた。同様の結果は、特定のTRPチャネルを活性化する生理活性物質を添加した場合においても起きていた。また、泌乳ヤギを用いた検証を行った。その結果、乳房の加温処理や特定のTRPチャネルのアゴニストを乳房表面に塗布することによって、ヤギ乳汁中の乳質、乳量、および抗菌成分濃度が変化することがわかった。 以上の結果より、乳腺上皮細胞の形態形成や乳産生能力は多様な物理化学的刺激によって調節されていること、その調節にはTRPチャネルが関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究申請書で立案した通りに研究が進んでいるが、当初の計画以上の成果までは得られていないことから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目である2022年度は、初年度の研究をさらに発展させる実験、および、複数の物理化学的刺激を同時に感知した場合の影響を調べる実験を行う。 まず前者においては、特定のTRPチャネルをノックアウトした細胞、およびTRPチャネルのアゴニストとアンタゴニストを用いて、物理化学的刺激による乳産生や形態形成の変化がTRPチャネルに起因することを検証する。具体的には、cell culture insertに乳腺上皮細胞を培養することで作製した乳分泌培養モデルを用いて、体内側と体外側の浸透圧格差が乳産生能力とタイトジャンクションに及ぼす影響を調べる。また、形態形成の実験ではマトリゲル内で乳腺上皮細胞をスフェロイド培養し、乳管伸長や乳腺胞形成に及ぼす影響を調べる。ヤギを用いた動物実験では、リポポリサッカライドを用いた乳房炎モデルを作製し、乳頭口からTRPチャネルアゴニストを含む洗浄液を注入した場合の影響を調べる。 後者においては、TRPチャネルが感知する物理刺激(温度、伸縮、浸透圧)と化学刺激を(アラキドン酸や植物由来の生理活性物質)をそれぞれ同時に受けた場合の影響を調べるため、刺激処理を施した後の乳分泌培養モデルおよび形態形成モデルの乳腺上皮細胞を回収し、免疫染色、ELISA、乳成分測定キット、ウエスタンブロット、および定量PCRを用いて乳腺上皮細胞の乳産生能力と形態形成能力を分子・細胞レベルで評価する。
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