研究実績の概要 |
牛肉や豚肉などの食肉は、熟成中にタンパク質から保健的機能(抗酸化作用等)を有すペプチドが生成する。また、食肉を加熱処理(加工・調理)を経る際に、メイラード反応により好ましい香気成分が生成する。このような香気成分の中には、食欲増進等の生理作用をもたらすものがある。これらの状況を背景とし、本研究では、家畜の飼育段階から食肉の加工・調理に至る段階までを俯瞰し、食肉の美味しさと保健的機能性の両者を向上させる技術開発を目指したものである。各種食肉を用いて、熟成中のプロテオリシスにより生成するペプチドを検討した結果、熟成程度と血圧降下ペプチドや抗酸化(スーパーオキサイドイオン消去)ペプチドなどの生理活性ペプチド生成の間には、明確な関連があることが判明した。このことは、熟成コントロール(温度、期間、気相等の要因制御)により、保健的機能性の高い食肉をもたらすことが可能であることを意味している。また、熟成程度の異なる食肉を用いて、加熱処理をした際の香気成分を検討した結果、タンパク質の分解により生成するペプチドの量とメイラード反応生成香気の量および質の間に、関連があることが見いだされた。これらのペプチドや香気成分は、嗜好性と保健的機能性の両者において重要な役割を演じていると推定される。さらに、飼養条件が食肉(骨格筋)の代謝物質生成に及ぼす影響についても検討した結果、肉用牛(日本短角種牛)を放牧あるいは舎飼で肥育した場合、約40種類の代謝産物含量に違いが生じることが、GC/MSメタボローム解析により判明した。とくにグルコースやマルトースといった糖類含量の違いは、加工・調理時のメイラード反応生成物にも影響することから注目されることから、加熱時の2,5-dimethyl-4-hydroxy-3(2H)-furanoneや2,3-dimethylpyrazine生成量との関係からもアプローチを進めた。
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