研究課題/領域番号 |
21H02352
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
戸田 知得 北海道大学, 獣医学研究院, 助教 (70571199)
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研究分担者 |
榎木 亮介 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 准教授 (00528341)
近藤 邦生 生理学研究所, 生体機能調節研究領域, 助教 (90784950)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 糖代謝 / 視床下部 / グルコースセンシング / 糖尿病 / 骨格筋 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は脳による血糖値感知に重要なグルコースセンシング神経の機能が肥満によって低下するメカニズムを解明することである。我々はグルコースセンシング神経のsingle cell RNA sequenceによって、肥満にともなうグルコースセンシング神経機能低下の原因となる分子Aを発見した。分子Aを肥満マウスの脳内に投与すると骨格筋のインスリン感受性が増加し全身の糖代謝が改善する。2021年度は分子Aの糖尿病改善メカニズムに焦点を当て研究を進め、以下の研究成果を得た。 ①グルコースセンシング神経特異的な分子Aの欠損マウスを作成するために、先端モデル動物支援プラットフォームのモデル動物作成支援を利用し、分子Aのfloxマウスを作成した。現在、Creマウスと交配し、子マウスが産まれている。 ②研究分担者との共同研究により、骨格筋を支配する神経回路同定の実験を行った。肥満マウスの骨格筋にGFPを発現する仮性狂犬病ウイルスを投与し、分子Aの投与の有無でGFPを発現する神経回路に違いが出るかを検討した。一部の脳部位でGFPの発現量に違いがあった。 ③研究分担者との共同研究によりin vivoカルシウムイメージングのセットアップを行った。細胞内カルシウム濃度センサーを発現させるアデノ随伴ウイルスの種類および濃度、脳内に留置するGRINレンズの深さなどの条件検討を行った。 ④別の方法でグルコースセンシング神経の標識を行うためにマウスを絶食させた後に餌を与え、食後に活性化する神経を調べた。その結果、視床下部背内側核の神経細胞が食後1~2時間後に活性化し、食欲を抑制することが分かった。この神経細胞はPdyn, Grp, CCKおよびTRH受容体を発現するグルタミン酸作動性神経であることが分かった。これらのデータをまとめ、国際的な栄養代謝学雑誌のMolecular Metabolismに発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、floxマウス作成および仮性狂犬病ウイルスの神経トレーサー実験など研究が進んでいる。in vivoカルシウムイメージングも今年度中に測定が可能である。また、Molecular Metabolismに論文を発表するなど、十分に成果が出ている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、分子Aによる糖尿病改善作用メカニズムを解明するために以下の①~④を行う。 ①グルコースセンシング神経特異的な分子A欠損マウスは、分子AのfloxマウスとCreマウスを掛け合わせる方法と分子A-floxマウスの視床下部にアデノ随伴ウイルスを投与する方法の2種類で作成する。この分子A欠損マウスの体重、摂食量、糖代謝の変化、グルコースセンシング神経のシナプス形態の変化などを測定する。 ②肥満マウスの骨格筋に神経トレーサーの仮性狂犬病ウイルスを投与する実験をもう一度行い、統計的に差があるかを検討する。しかし、昨年度の実験では我々が注目している視床下部腹内側核には仮性狂犬病ウイルス由来のGFPは発現しなかった。従って、視床下部のグルコースセンシング神経は間接的に骨格筋の糖代謝を調節していると予想される。そこで視床下部のグルコースセンシング神経に細胞膜結合型GFPを発現させ、神経軸索がどこに投射しているかを調べる。骨格筋から上行性に神経トレースを行うことと視床下部から順行性に神経トレースを行うことで、その交点がどこかを明らかにする。 ③in vivoカルシウムイメージングを行い、高脂肪食で飼育し徐々に肥満になっていくどの段階で視床下部のグルコースセンシング神経の活動低下が起こるかを調べる。また、脳全体で神経活動の変化を測定するために定量的活動依存性マンガン造影 MRI (manganese enhances MRI)および脳透明化による全脳cfos染色を試みる。 ④肥満だけでなく精神的ストレスや老化も糖尿病発症リスクを増加する。そこで、うつ病モデルマウスや老化マウスのグルコースセンシング神経の活動を測定する。
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