研究課題/領域番号 |
21H02353
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
西川 義文 帯広畜産大学, 原虫病研究センター, 教授 (90431395)
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研究分担者 |
渡邉 謙一 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (10761702)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 原虫 / ネオスポラ / 垂直感染 |
研究実績の概要 |
農場経営を進める上で家畜生産に損害を与える疾病、特に病原性原虫ネオスポラの胎子への 垂直感染によるウシの流産に注意する必要がある。しかしネオスポラに対するワクチンや治 療薬は実用化されていないため、ネオスポラ感染の伝搬メカニズムの理解に基づく防御方法 の開発が必要となる。ネオスポラの宿主体内伝搬は、原虫由来の遊走因子が作用して炎症反 応と連動しながら単球系の細胞を利用することが必要である。そこで本研究ではネオスポラの垂直感 染を実行させるメカニズムの全貌を解明することを目的とし、「原虫伝搬因子が妊娠子宮・ 胎盤の環境をハイジャックすることで垂直感染が成立する」という仮説を立てた。本研究で は、マウスの垂直感染モデルを確立し、宿主側および原虫側の原虫伝搬因子の同定を行い、 垂直感染の防御方法の開発を目指している。 2021年度は以下の研究を実施した。 (1)垂直感染モデルの確立およびその病態解析 BALB/cマウスとC57Bl/6マウスを用いて、妊娠中期(妊娠7から10日)に原虫を 腹腔内接種することで垂直感染が成立することを確認した(先天性感染による垂直感染モデル)。一方で、慢性感染させた雌マウスを繁殖させても、垂直感染は確認できなかった。先天性感染による垂直感染モデル(C57BL/6マウス)を用い、妊娠13.5日(感染10日)の胎盤組織の組織学的解析を行った。ネオスポラ感染マウスの胎盤組織では、T細胞とマクロファージの集積が認められ、組織炎症が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BALB/cマウスとC57Bl/6マウスを用いて、妊娠中期(妊娠7から10日)に原虫を 腹腔内接種することで垂直感染が成立することを確認した(先天性感染による垂直感染モデル)。一方で、慢性感染させた雌マウスを繁殖させても、垂直感染は確認できなかった。次に先天性感染による垂直感染モデル(C57BL/6マウス)を用いた解析で、感染原虫数に依存して新生マウスの生存率が低下した(10^6感染:7.7%、10^5感染:19.4%)。ほぼ全ての新生マウスからネオスポラDNAが検出されたことから垂直感染が確認され、生後1週以内に死亡した新生マウスからは高度の原虫伝搬が認められた。次に妊娠13.5日(感染10日)の胎盤組織の組織学的解析を行った。ネオスポラ感染マウスの胎盤組織では、脱落膜と内膜直下筋層に軽度の浮腫及びT細とマクロファージの浸潤が観察された。胎盤に出血や壊死はなく、ラビリンスの顕著な組織学的な変化は認められなかった。原虫の存在部位を解析するため定量PCRを実施したところ、胎児ではなく胎盤から原虫DNAが検出された。以上より、垂直感染モデルの確立およびその病態解析はほぼ完了したため、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は以下の研究課題を実施する。 (2)子宮・胎盤領域、胎子への原虫伝搬因子(宿主由来)の探索同定 感染および非感染妊娠マウスの組織を用いたRNA-seq法による比較トランスクリプトームを実施する。妊娠マウスにおいて原虫感染の有無により変動する遺伝子発現変化の全容を把握することで、原虫伝搬に関与する宿主シグナル経路を選定する。 トランスウェル実験系(上層:原虫感染細胞、下層:組織抽出物あるいは比較トランスク リプトームで同定されたケモカイン等遊走因子)を構築し、感染細胞の下層への遊走に関与 する原虫伝搬因子(宿主由来)を探索する。感染細胞の遊走が確認された組織抽出物は、非 感染組織と感染組織サンプルを2次元電気泳動により分離しMALDI-TOFMSで解析する比較 プロテオームを実施する。感染により増加したタンパク質を同定し、トランスウェル実験系 の結果と比較する トランスウェル 実験系で選択され た子宮、胎盤、胚 それぞれから見出 された原虫伝搬因 子(宿主由来)の ノックアウトマウ スを3系統ほど導入し、 2021年度に構築した垂直感染モデル の実験条件にて野生型マウスへの感染と比較して垂直感染率が低下することを確認する。上記一連の実験によ り、原虫伝搬因子(宿主由来)を同定する。
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